9の能力から芽生えるテクノロジー革命 NHK出版2018年3月刊
植物は、人間の生活にとって必須の存在で、また私たちが生きる現代という時代にふさわしいモデルでもあります。10憶年前、陸上に進出した植物は、動物とは正反対の決定をくだしました。動物が、必要な栄養物を見つけるために移動することを選択したのに、植物は動かないことにして、生存に必要なエネルギーを太陽から手に入れることにしたのです。しかし、それは激しい環境の変化や、さまざまな捕食者に襲われても逃げ出すことができない苦難の道でした。生き残るための唯一の方策は、どのような災害にも耐え抜く、堅固でしかも柔軟な体で新たな解決方法を生み出して、素早く環境に適応することだったのです。
著者は、さきに「植物は知性をもっている」(NHK出版2015年刊)で、植物がいかに賢いかについて、詳しく解説しました。(バイオマス図書館で紹介すみ)本書はその続編で、植物と人間のかかわりを具体的に示し、植物の持っている大きな可能性を、人類の未来のために生かしてゆく著者の、革新的なさまざまな実践活動事例を取り上げています。
植物の驚くべき能力を挙げてみましょう。脳がないのに記憶できる、巧みな繁殖戦略、視覚がないのに擬態する、筋肉がないのに運動する、動物を騙してうまく利用する、機能を分散させて自然のインターネットを生かす、建築構造の技術、環境適応力、資源をうまく循環させるの9つがあります。これらの植物モデルは、私たちの新しい発想を刺激するのです。
著者は植物をヒントに、画期的な地中探査ロボットを提案しました。最小限のエネルギーで動き、モジュール形式で組み立て、コロニーとして行動します。その根端は、それぞれにセンサーと自律的な指令センターを備え、細胞の分裂と膨張で、強固な岩石などの障害物を砕き、押しのけて伸びてゆくのです。これは放射線による汚染土壌の調査や、火星探検などの技術として大きく注目されています。これまでの動物モデルとの発想からの大転換です。
また動かないとされていた植物が撮影技術の進歩で、緩急の優れた運動能力を持っていることが発見されて、筋肉を持たない運動ロボットのアイデアに発展しました。つる性植物は物体をつかむ人工器官の絶好のモデルです。さらにオランダフウロの種子が、はじけて爆発的に発射するメカニズムは驚異的なもので、惑星探査ロボットの開発に生かされています。著者自身も、放物線飛行による無重力実験に積極参加して、植物が微小重力の変化を最速に検知し、根で活動電位を発生させ、隣接した領域に伝達することを確認しました。
著者は、さらに近年の需要の増大による淡水不足の問題に取り組んでいます。地球に存在する水の97%は海水で、人間が使える水は3%しかありません。そのうちの1%は極地の氷ですから、実際に使える水は2%しかないのです。それに耕作面積も限界とあっては、海面の利用が急務でしょう。塩分に高い耐性を持つ、塩生植物を育成する研究とともに、著者は海上に浮かぶ温室で、太陽熱で淡水化した水を用いて、レタスを栽培するプラントを開発して、ミラノ万博で注目されました。著者の行動力は未来へ大きく踏み出しています。「了」