「系外惑星と太陽系」 井田 茂著2017年4月30日 吉澤有介

岩波新書2017年2月刊
著者は、東工大地球生命研究所の教授で、惑星系形成論を専攻しています。宇宙の中の銀河の一つである私たちの銀河系には、数千億個の恒星が存在し、その中の一つである太陽には、地球を含めていくつもの惑星が回っています。太陽はごく平凡な恒星ですから、このような惑星系はどの恒星にあっても不思議ではありません。
事実、最近の天文学の革命的な進展により、太陽系外にも数千個もの惑星が発見されています。探索方法が劇的に進化したのです。太陽系はすでに「奇跡の存在」ではなくなりました。太陽と同じような恒星の半数以上に、惑星が回っていることがわかったのです。 最初に発見された系外惑星は1995年、中心の恒星のすぐ近くを4日で周回しているガス惑星(ホットジュピター)という、想像をはるかに超えたものでした。しかしその存在が確認されて、多様な惑星があることがわかると、系外惑星の発見が一気に進んだのです。
さらに地球に似た岩石惑星(スーパーアース)も相ついで発見されました。液体の水の海があるかも知れない、その存在確率は10~20%mもありそうなのです。海があれば生命の可能性が出てきます。いわゆる「ハビタブル惑星」です。系外惑星を研究してゆくと、「天空」の科学が、足元の地球を理解するという「私」の科学にもつながることになったのです。ここで従来の「太陽系中心」、「地球中心」主義から脱却して、「天空」と「私」が交錯する新しい研究分野が生まれることになりました。
観測結果によれば、惑星系が銀河の中に遍く存在し、地球に似ているかどうかは別にして、ハビタブル惑星の可能性は無限といっても良いほどあります。この銀河系には生命が満ち溢れているのかも知れません。本書では、観測技術がどのように進んできたのか、そのさまざまな方法を紹介しています。観測方法はまさに世界の研究者の知恵比べで、予算や人員よりも創意工夫がポイントで、新規参入組や若手チームも活躍しています。望遠鏡による直接観測よりも、中心星の光の変化を捉える「間接法」が主流になってきました。ドップラー法の視線速度法、重力レンズ現象によるものなどがありますが、最近は惑星が中心星の一部を隠す「食」で見つける「トランジット法」が多くの成果を挙げています。
さて、惑星はどのようにして形成されてきたのでしょうか。1980年代までは、太陽系しか知られていなかったので、そのサンプルを元に惑星形成理論が構築されてきました。古典的標準モデルです。それは原始惑星系が円盤から微惑星に進むとして、見事に太陽系の姿を説明しました。やがて系外惑星に円盤が観測されて、この仮説が確認されます。ところがその円盤の観測が進むにつれて、微惑星へのプロセスに問題があることがわかって、新たな説明が求められました。そこで著者は、スパコンのシミレーションから「寡占成長」という成長様式を発見しました。この呼び名はすでに世界の学会に定着しています。
このように太陽系を見直してゆくと、地球にもなお多くの疑問が出てきました。「水の惑星」といっても、水の総質量は全体の0.1%もありません。この貴重な水がどこから来たのか。固有の特徴は何か。いま「天空」の科学は、「生命の起源」にまで迫っています。「了」

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