- 地球深部探求の歴史 - 江口あとか訳、築地書館2016年1月刊
著者は英国の著名な天文学者で、NASAのミッションにも参加し、現在は主にサイエンスライターとして活動しています。その功績で、小惑星に「ホワイトハウス」と命名されているそうです。これまでは遠い宇宙の謎を研究してきましたが、本書では一転して足元の地球内部の、見ることの出来ない驚きの世界を最新の知見で語っています。その物語では、SF作家ヴェルヌの「地底旅行」が出て、ちょうど150年になったところでした。
そこで著者も、その後の科学の進歩の解説は後回しにして、いきなり天文学者による新たな「地底旅行」に出発します。地球の中心に向けてまっすぐにトンネルを掘り、想像上のカプセルに乗ってその穴に入ると自由落下して、理論的にはわずか21分で中心に到達するはずです。実際には太陽の表面ほどの高温、350万気圧の苛酷な条件ですが、それはひとまず置いておきましょう。カプセルは1分もしないうちに地殻を通過します。軽い岩石の地殻は、厚さ35kmしかないからです。その先はさらに密度の高い岩石が水飴のようになっている上部マントルです。8分後には深さ660kmを超えて下部マントルの底に到達します。海洋底の残骸が循環し、解けた岩石のブルームが何億年もかけて地表に上昇してゆく奇妙な構造が見られます。2890kmに達すると岩石部分を突き抜けて、この旅での最大の衝撃を受けるのです。そこは外核と呼ばれる液体金属の海でした。2000kmにわたって猛烈な波が渦巻いています。8分後にまた大きな衝撃がありました。深さ5200kmの超高密度の固体の内核です。巨大な鉄の結晶の中を時速29000kmで落下すると中心に到達し、突然に無重力になりました。そのまま突き進むと、今度は逆の道を辿り、次第に減速して地表で止まります。ただ陸地から出発すると反対側は殆ど海面です。全行程およそ42分の旅でした。
著者は実際に地底旅行に出かけました。それはイギリス北東部にあるカリューム鉱山で、地下1000mまで降りたのです。15000年前の氷河期の礫層、200万年前の鉄鉱石層、さらにジュラ紀の頁岩を過ぎて、最後に2億6千万年前のベルム紀の蒸発岩層に到達しました。
しかしもっと深く掘り下げた穴があります。旧ソ連が北極圏、ノルウェイに近いコラ半島で深さ12kmまで掘ったのです。しかし2百℃に達する地温に苦しみ、資金も続かず1992年に放棄されてしまいました。それでも多くの成果を挙げています。地下6km、20億年前の岩石から微細なプランクトンの化石を発見しました。岩石には水が充満し、流れ出た泥水には水素が沸騰していたそうです。ここ数年再びマントルへの挑戦が始まっています。日本の掘削船「ちきゅう」もその一つです。プレートが沈み込むマントルには、さまざまな変化があります。ダイアモンドアンビルセルの発明で、実験室での超高圧のマントルの観察が可能になりました。東工大の廣瀬敬らは鉱物相の遷移で大きな発見をしています。
地震波の解析も進みました。2億年後に破局的火山爆発で大絶滅が起きるという説もあります。地球の磁性の探求で、磁場の逆転現象が外核の溶融鉄の流れの変化にあるとわかりましたが、月の大きさの内核の構造は、なお深い神秘に包まれています。宇宙には惑星が無数にあり、生命がきっといます。地底旅行はその発見のヒントになることでしょう。「了」
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