- 20の感覚で思考する生命システム - NHK 出版2015年11月刊、久保耕司訳
植物は、知性を持っているでしょうか。植物には脳がありません。脳がなければ知性があるはずがない。私たちはそんな先入観に縛られてきました。ところがこの50年の間に多くの発見がありました。植物は洗練された感覚を備え、コミュニケーション能力があり、社会的な生活を送っており、優れた戦略を用いて難題を解決することができる生物でした。「知性」とは何か。「問題を解決する能力」と定義すれば、植物は疑いなく素晴らしい「知性」をもっているのです。移動できない植物は、動物とは違う形で進化してきました。
人間の体の各器官はそれぞれ一つずつしかなく、取替えることも切り分けることもできません。損傷したら死ぬしかない。これはほかの動物でも同じです。ところが植物の体は、個々の器官を持たない、モジュール構造になっています。草食動物に大部分を噛まれても死ぬことはありません。植物は「司令センター」を無数に備えた分割可能な生物なのです。
植物は、生まれたときから多くの不自由さを抱えています。それでも外界からの刺激に適切な対応をしてきました。人間の持つ五感のほかに、少なくても15の感覚があるといいます。例えば、重力、磁場、湿度、化学物質とその土壌含有率まで分析できるのです。私たちがもしも動けない存在になったとしたら、どうやって生きてゆくでしょうか。あらゆる感覚を研ぎ澄まして周囲の状況を把握するはずです。それが植物の生き方だったのです。
本書では、同じ生物でありながら動物と分かれて進化した植物の特徴を知るために、まず単細胞同士で、動物のゾウリムシと植物のミドリムシ(ユーグレナ)を比較しています。どちらも素晴らしい能力を持っていますが、ミドリムシは光合成ができることで生物としての優位性を示しました。植物は「独立栄養生物」なのです。生物学では、ほかのどの生物種よりも広い生活圏を獲得している種を「支配的」とみなします。そこでつい私たちは、地球を支配しているのは人間だと思いがちです。しかし、地球上のバイオマスのうち多細胞生物の99,7%は、人間でなく植物が占めています。人間は他の動物まで含めても0.3%しかありません。まぎれもなく地球は植物が支配しています。もし植物が消えたら、動物は数週間も生きていられませんが、逆の場合は、植物が地球を覆い尽してしまうのです。
植物には目も鼻も口もありません。しかしその感覚は驚くべきものでした。光の質と量を識別します。それも葉だけでなく全身で捉えるのです。トマトの嗅覚、ハエトリグサの味覚、オジギソウやつる草の触覚、ブドウの聴覚、食虫植物の動き、さらに植物の根の地中での行動の巧みさ、水分やミネラル、化学物質の選別吸収能力、内部や周辺との情報のコミュニケーションによる防衛戦略、「根圏」というコミュニテーでの細菌との交流、花や実の巧妙な繁殖戦略、騙しのテクニックなど、動物を超える高度な知性を見せてくれます。
このうち特に植物の根系の運動能力は、かってダーウィンも注目していましたが、その根端の機能はインターネットそのもので、ロボットや人工知能開発のアイデアの宝庫といえます。植物のネットワークは、「グリーンターネット」とも呼ばれているそうです。「了」
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