-生命の起源と進化の最新科学-
本書の原題は「新しい生命史」となっていました。生命史については、1990年代に出た、R・フォーテイの「生命40億年全史」(草思社文庫)が有名ですが、その後の科学の進歩はあまりにも目覚しく、当時は全く存在していなかった宇宙生物学などが新たに誕生しています。
1992年に系外惑星が発見されて、地球の生命史に対する認識が一挙に変わりました。その発見者のマーシーによると、すぐにヴァチカンから電話があったそうです。宗教的にも大問題だったからです。生命が居住可能な惑星はいくつもあって、地球はその一つに過ぎなかったのです。大掛かりな「地球型惑星」の探査が始まりました。
しかし地球型と言っても、過去の地球は大きな変化を経験しています。46億年より前に「微惑星」が衝突・合体を繰り返して原始地球を形成しました。45億6500年前に、火星サイズの天体に衝突されて月ができました。全球がマグマの海となり、水圏や大気圏が生まれています。38億年前でも、地球の自転速度は速く、1日は10時間くらいで、太陽は今よりもはるかに暗く、大気にも海にも酸素はありませんでした。大気の組成はどんどん変わり、炭素の循環が始まります。大陸の形成、移動で山が隆起し、風化や浸食によって二酸化炭素が急減して、寒冷化が進みました。一説によると、40億年前にすでに生命が生まれた可能性があったそうです。しかしそれで実際に生命が生まれたとは限りません。
生命を持たない物質から、いかにして生命ができるのでしょうか。そこであらためて「生命とは何か」が問題になったのです。2006年、M・ロスは、致死量に近い硫化水素に哺乳動物を曝すと、「仮死」状態になることを発見しました。そして硫化水素を除くとすべてが正常に戻ったのです。生と死の間には中間の存在がある。死はどうやら最終的な状態ではないらしい。その後、オゾン層に細菌や真菌、ウイルスなどが数千種いることもわかりました。彼らは、採取したときは死んでいたのに、地上に戻ると生き返ったのです。
生命誕生の現場としては、これまで海底の熱水噴出孔という説が有力でした。ところが新しい仮説として砂漠の衝突クレーターが提出されました。環境からみると、もっとも難しいとされるRNAができるのです。そこで行われたこの10年間の実験の結果、生命はまず火星で生まれ、それから隕石に載って、生きたまま地球に到達した可能性が出てきました。
火星の直径は地球の約半分しかありません。質量は10分の1です。表面の物質が重力場から逃げ出しやすい。惑星間のパンスペルニアと呼ばれるプロセスで、火星から地球へ運ばれることが実験でわかったのです。RNAが機能する状態であることも確認されました。
著者は、この立場から地球全史をあらためて見直し、生命を育む仕組みとその歴史を、元素の循環と地球の気温、大気組成の変化を詳細に追っています。これまでの地質年代区分も変わるそうです。スノーボールアースによる大量絶滅と、そのあとの多様な動物の誕生も衝撃的な出来事でした。生命は仮死状態で生き延びたのでしょう。地球は徐々に変化したのではなく、突然の事象に何度も見舞われています。「新・天変地異」説でした。「了」