「重力波は歌う」ジャンナ・レヴィン著 2016年12月3日吉澤有介

-アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち-
2016年2月、アメリカ・ワシントン発の報道が、世界をかけ巡りました。重力波の直接観測に初めて成功したというのです。
その存在が間接的にしか証明されていなかった重力波が直接検出されて、一般相対性理論の正しさがまた実証されたのですから、世界が驚いたのも無理はありません。
1915年にアインシュタインが発表した一般相対性理論によれば、質量を持つ物体があると、そのまわりの時空がゆがみます。その物体が動くと、時空のゆがみも変動する。
この変動が波のように伝わってゆくのが重力波と呼ばれる現象です。
これはどこでも起きる現象のはずですが、あまりに微弱で、とても検出できるものではありません。そこで天体現象に注目することになりました。
超新星の爆発、連星中性子星の合体、ブラックホールの衝突などがあれば、途方もなく大きな重力波が出るはずです。しかしその場合でも地球に到達する頃には、はるかに弱くかすかな音になっているので、もちろんこれまで誰も聞いたことがありません。それどころか、重力波がほんとうに存在するのか、物理学者の間でも異論が出るほどでした。
ところが1970年前後でその情勢が変わります。このビッグサイエンスに挑む科学者たちが現れて、超高感度の検出器の開発で、発見の現実味が出てきました。そして幾多の苦難の末についに重力波の音を聴いたのです。本書は、その研究の道のりを丹念に辿った年代記です。1969年にまず実験に成功したと名乗りを挙げたのはJ・ウェーバーでした。海軍の技師だった彼は、自作の装置で検出したと発表しましたが、検証の結果否定されたのです。
しかしこれは科学者たちへの大きな刺激となりました。天体物理学者が続々と参入してきたのです。その生い立ちも性格も全く異なる3人がチームを組むことになりました。 MITのワイス、カルテクのソーン、それにハーバードのドレーヴァーです。ワイスは干渉計のアイデアを出し、ソーンが理論を深め、ドレーヴァーはゼロからものをつくるのが得意で、科学界のモーツアルトとも呼ばれた天才でした。紆余曲折を経て7000万ドルのプロジェクトLIGO (レーザー干渉計重力波研究所)がスタートしました。しかし第一回の干渉計では、宇宙の声は全く聞こえませんでした。これからが苦難の連続だったのです。
しかし2015年9月14日早朝、まだ準備が十分整っていなかった装置にバーストが検出されました。これはきっと背景雑音を見分けるための盲検注入信号だろう。関係者に確認してみると、それはありませんでした。さあたいへん。これは訓練ではない。2台のLIGO干渉計がついに約30太陽質量の二つのブラックホールによる衝突・合体の信号を捕らえたのです。情報はすぐ秘密にされて、その後3ヶ月にわたって慎重に精査され、初の重力波直接観測であったことが確認されました。奇しくもアインシュタインの一般相対性理論の発表から、ちょうど100年のことでした。数十億年前、二つの大きな恒星が回っているうちにともに死んで、二つのブラックホールになり、最後に合体したときの重力波だったのです。まさに「重力波天文学」の幕開けでした。本書はその臨場感をよく伝えています。「了」

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