「サボリ上手な動物たち」 佐藤克文・森阪匤通共著 2016年9月13日  吉澤有介

—海の中から新発見—
著者らは世界に先駆けて、1989年から野生動物に小型のカメラや行動記録計を取り付ける「バイオロギング」という手法で、さまざまな魚類や鳥、爬虫類に哺乳類などの行動や生態を研究してきました。

佐藤の著書「巨大翼竜は空を飛べたか」(平凡社新書)は、すでに皆さんにご紹介しています。

巨大翼竜は空を飛べたか 佐藤克文平凡社新書 2011・6・17


本書では、動物たちの思いがけない姿がさらに詳細に語られていました。バイオロギングは、直接観察できない野生動物の行動を、水中でも夜間でもすべて記録できるのです。
その記録技術は近年大きく進んでいます。佐藤は、エンペラーペンギンに重さ73gの深度計を取り付け、最長潜水時間27分36秒を記録しました。小型カメラでは、動物目線でエサを獲る瞬間を捉えています。しかし濁った水中ではカメラが使えません。動物たちは視覚以外の感覚を使って生活をしています。ガンジス川に棲むイルカは、聴力が進化して、エコーロケーション能力で「見て」いました。森阪はその音を聴き取って、イルカが何を「見て」いるかがわかりました。ソナグラムとして記録できたのです。また超小型の加速度計は、動物のすべての動きを定量的に記録して、多くの新発見をもたらしました。
南極のペンギンやアザラシは、250mの深さまで潜水してエサを獲っていました。オオミズナギドリの親鳥は、普段は繁殖地の島の周辺でエサを獲って雛を育てていますが、ときには100kmも遠くまで出かけていました。それでも夕日が沈むころに必ず島に帰ってくるのです。距離にあわせてエサ場からの引き上げ時刻を決めていました。その移動パターンをみると約8割が飛翔で、その平均対地速度は35km/h、最大70km/h、あとの2割が海面での休息でした。距離だけでなく風も考えて適当に休み、帰着時刻を守っていたのです。ときには500kmも遠征して、それでもきちんと帰ってくることを確かめました。ウミガメも、本当は速く泳げるのに、あえてゆっくり泳いで省エネしていたのです。野生動物は一見サボっているようで、実は能率を重視して暮らしていました。
第一次南極観測で越冬隊長を務めた西堀栄三郎は、隊員たちに能率を厳しく求めました。その能率とは、「目的を達成しつつ、もっとも要領よく手を抜くことだ」と言ったそうです。多くの動物たちも、めったに最大能力を発揮せずにゆったりと暮らしていました。バイオロギングでの計測では、研究者はつい最大能力だけに注目してしまいがちですが、それはナンセンスなことでした。動いていないことの記録もまた重要だったのです。
著者の一人佐藤は国立極地研究所に勤務したので、野外調査はまず南極から始めていました。その後東京大学大気海洋研究所に移って、世界各地に活動の場を広げています。あるTV局からの依頼で、アフリカのチーターが狩りをする速度を測定しました。その結果は時速59kmで、図鑑でいうほど速くはなかったのです。これには一同が驚いてしまいました。
野生動物は、いつでも最大限がんばっているわけではありません。淡々と動き、そして休んでいます。バイオロギングは、そんな彼らの実態を明らかにしてくれました。「了」

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