- 科学が解き明かす歴史のミステリー -
考古学や地質学にとって、実に楽しい時代がやってきました。宇宙の誕生、地球の歴史などの過去の出来事が、新技術によってどんどん明らかになってきています。私たちはこれがどのくらい古いものかを知って、その時間の大切さを伝えることができるのです。
本書は、世界の暦の始まりと紀元の制定、伝説的出来事や遺物の年代の検証、氷河時代の解明、ヒトの進化と大型動物の絶滅など、宇宙の誕生以来の過去を学んで未来への指針とする学際的な試みで、実に多くの科学者が登場します。その一部を紹介しましょう。
エーゲ海にあるサントリニ島は、世界で最も幻想的な島のひとつです。長い噴火の歴史があり、最後の噴火はそれまで栄えていたミノア文明を一瞬にして崩壊させました。
その噴火の時期を巡って、さまざまな説が出されました。当初は近隣の遺跡から発掘された陶器などと比較する類型学で概算しましたが、1970年代に放射性炭素年代測定、1984年には地磁気の方向による分析が行われました。しかしどれも歴史学と一致しません。
その論争が決着したのは、意外にも遠く離れた北米のロッキー山脈に生育している、世界最長寿の樹木ブリストルコーンパイン(和名イガゴヨウマツ)の年輪解析でした。1984年のことです。米国の研究者ラマルシュは、年輪が狭くなる時期が、BC1628年から始まっていたことを明らかにしたのです。これはアイルランドの埋もれ木でも確認されました。
年輪年代学は、1年単位で年代を決定できる精密科学でした。なお驚くのは、この手法はアリストテレスの弟子であったテオフラストウスがBC300年ころに見出していたのです。レオナルド・ダ・ヴィンチも、過去の気候を調べる方法として挙げていました。長期的に樹木の生育条件は変わってゆきます。その年の気候や環境によって年輪幅が変わるのです。その年輪を別の木と重ね合わせることで、長期にわたる年代の記録も可能になりました。
地球の異常な寒冷化は、火山の噴火だけではありません。1999年に英クイーンズ大学のM・ベイリーは、世界中の年代学の記録を検討し、4~5年続く環境の悪化は、サントリニ噴火の後にも少なくとも3回あったとしました。いずれも世界同時に起こっていたのです。
BC2345年、BC1159年、AC536年でした。そこには火山噴火はなく、何と大彗星の接近がありました。最後の536年には多くの記録が残されています。巨大で恐ろしい彗星が100日間現れました。その後太陽は暗くなり、日照は4時間ほどしかなかった。全世界が飢饉となり、著しい寒冷化が10年続きました。542年にはエジプトからペストが発生し、欧州人口の三分の一が死んでいます。2004年にカーデフ大学の天文学者らが、この彗星の影響を検討したところ、直径300mの彗星の衝突と推定しました。彗星が大気に突入すると、その背後に中空の管状部分を形成し、大砲のようにエアバーストのエネルギーが彗星の破片を大気中に散らします。衝突しなくても、接近するだけで岩と塵が降り注いて、太陽光を遮ることがわかりました。世界は破局と飢餓に襲われたのです。つい1994年には、木星に巨大彗星が衝突しました。過去から学び、その教訓を生かすことが大切でしょう。「了」
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