恐竜は、今から2億3千万年前の三畳紀に出現し、ジュラ紀、白亜紀に渡って繁栄し、地球の生態系を支配しました。恐竜の特徴は、何といってもその巨大さであり、デザインの多様性でしょう。中には背中に帆を乗せたもの、角やフリルにヨロイ、ヘルメットなど奇妙な装飾に凝ったものもいました。その繁栄を極めた恐竜も、今から6600万年前の白亜紀に起きたK/Pg境界の、地球史上5度目の大絶滅で、突然姿を消したのです。しかしこの絶滅は、過去に限ったことではありません。今、地球に生きる生命は、6度目の大量絶滅の真っ只中にいるのです。その原因は私たち自身にある。人類に未来はあるのでしょうか。
実は絶滅を生き延びた一部の恐竜がいました。「進化した恐竜」である鳥類です。どのようにして恐竜はトリになったのか、そこには多くの不思議がありました。
著者は北海道大学総合博物館の準教授です。恐竜研究で当時世界をリードしていた米国の大学で学びましたが、恐竜絶滅直前の白亜紀末のアラスカからアジアにかけての精力的な研究で多くの業績をあげ、日本の恐竜研究は世界の最先端をゆくことになりました。恐竜の研究は近年急速に進み、現在までに約1000種が発見されています。骨盤のタイプで大きく分けると、鳥盤類と竜盤類の二つのグループがあり、竜盤類のうちの獣脚類だけが肉食で、その他はみな植物食か雑食です。アルゼンチンで発見された最初の恐竜エオラプトルは、全長1mほどで雑食性でした。その後の進化の様子は歯の形でわかります。片方は植物食で巨大化し、体長30m、体重50トンのアルゼンチノサウルスに、もう片方は体長12m、体重6トンの「最強の肉食恐竜」というテイラノサウルスに進化してゆきました。
古生物学では、恐竜の定義を「トリケラトプスと鳥類(イエスズメ)の、最も近い共通祖先から生まれた子孫のすべて」としています。従来の脊椎動物の分類法とは、全く異なる分岐学から定義しているのです。ここに出てくるトリケラトプスは単なる鳥盤類の代表で、もう一方の鳥類は竜盤類の最も進化したものです。鳥類が鳥盤類でなく、竜盤類の子孫だというのですから全く逆のようですが、専門家は一貫してこの定義を用いています。
始祖鳥の化石が南ドイツで発見されたのは、今から150年前でしたが、恐竜から進化したとされたのは1970年代になってからでした。その後1996年に中国で羽毛を持った恐竜の化石が発見されて、鳥類が恐竜の子孫と確認されたのです。ではなぜ羽毛や翼を発達させたのでしょうか。さまざまな仮説が提唱されましたが、羽毛は体温調節、翼は繁殖行動のためという説が有力です。食性についても、元は肉食の獣脚類だったのに、穀類などを消化できる胃石を持つようになって植物食に進化してゆきました。著者の研究成果です。
さて鳥類になった恐竜は、空に逃げたのでしょうか、それとも空を攻めたのでしょうか。凶暴な肉食恐竜から逃れるためという説もあり、肉食の強者が自ら地上から空へと新天地を開拓したという説もあって、まだ結論は出ていません。最近は化石から、飛行のための脳と神経系の研究も進んでいます。恐竜の研究は、進化とは何かを問い、絶滅した多くの生命からのバトンの行方を追って、人類の未来を考える壮大な思考体系なのです。「了」
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