異端の植物「水草を科学する」田中法生著 2016年3月2日 吉澤有介

水草とはどんな植物なのでしょうか。なぜ水中を生きるのでしょうか。水草は池や沼でよく見かけるごく身近な存在ですが、意外にその定義はあまり明確ではありません。一般には種子(または胞子)が水底や水中で発芽し、生活環の少なくとも一時期は水から葉や茎を出すもの(抽水)、葉を水面に浮かべるもの(浮水)、またはすべてが水中にある(沈水)植物とされています。しかしワカメやコンブは水草ではありません。さらにコケやシダはどちらなのか。ここに水草を研究するについての重要なポイントがありました。
著者はDNAによる進化の研究から、「水草とは、一度陸上に進出した植物が、再び水中へ進出したもの」と考えています。生物はおよそ40億年前に水中で誕生し、約12億年前には植物が誕生したのも水中でした。そして約5億年前に水中から陸上に進出して、多様な環境の中でさまざまな進化を遂げ、現在のような豊かな植物相をつくりあげたのです。
ところがおよそ3億年ほど前に、そのなかから再び水中に進出したものが現れました。水中は案外、植物にとって住みやすい場所だったようです。植物が生きる必須条件である光、水、空気、温度、養分のうち、水はいくらでもあります。光を通し、しかも温度差は少ない。養分もある。空気が最大の問題ですが、葉や茎を水上や水面に出せば良い。水中でも溶けている二酸化炭素を葉の表面から直接取り込む工夫をしました。その水草は、陸上で最も繁栄しているサクラやヒマワリなどの被子植物23万5千種に対して、およそ2800種というごく少数の種ですが、水中で生活する能力を獲得できた異端なエリートでした。
それも植物のうちの特定のグループだけが進化したのではありません。DNAから分かったことは、進化の途上でたくさん枝分かれしたグループ(目)の、どこの科からも出現していたことでした。そこには時空を超えた大きなドラマがあったのです。花の咲く最初の水草はスイレンでした。その時期は今からおよそ1,7~1,2億年前とされています。
これに対してワカメやコンブなどは、太古の時代から水中に生まれ、一度も上陸しないまま水中で褐藻類として繁栄してきました。したがってこれらは水草ではないのです。
水草はどのようにして子孫を残すのでしょうか。そこには驚くべき仕組みがありました。水草も花を咲かせます。進化を遂げた種子植物が水草になったのですから、花が水上に咲くものは問題ありません。バイカモなど水中で咲くものは花粉を送る方法を工夫しました。雄しべの花粉は水中を糸状につながって漂い、雌しべの柱頭に絡まって受粉するのです。海中に生きるリュウキュウスガモは大潮のときに雄花と雌花が一斉に開花して受粉の機会を増やしていました。花粉自体が水面を漂って移動するコカナダモなどもいます。食用でおなじみのクワイは、根茎によるクローン繁殖です。そういえばイネも水草でしたね。
水草は歩くことも泳ぐこともできませんが、海流で移動したりトリに付着したりして、世界中に移動しています。DNAで近縁の種が多いことも確認されました。ホテイアオイなどの外来種が異常繁殖したりしますが、水草は水辺の生態系を守る重要な働きをしています。江戸時代に肥料として利用されてきた歴史もあります。水草を見直しませんか。「了」

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