「100年予測」J・フリードマン著 2015年3月15日 吉澤有介

本書は、これからの100年の世界情勢を占うという極めて大胆な試みです。者は分析・予測のベースを地理と地理感を強調する地政学の考え方において、未来がどのようなものになるのか、その感触を伝えようとしています。現代の複雑な世界情勢で、地政学は一時は時代遅れとみられたこともありました。しかし国家や人間を動かす圧倒的な力は、地理的条件にやはり大きく左右されるのです。本書が2009年に発表されるとたいへんな話題になりました。現在の常識とあまりにもかけはなれていたからです。その予測を、ここにかいつまんでお伝えすることにしましょう。

・過去を振り返ると、20年間でどれほど世界が変化するかに驚くだろう。その事例は多い。
・世界について考え、将来の出来事を予想するために、「地政学」を用いる。
・国家や人々は、地理的な現実という制約の中で動くため、特定の方法で行動する。だからこれからの100年に起こる出来事のおおまかな輪郭がつかめるのだ。
・アメリカの支配はまだ始まったばかりであり、21世紀は一層アメリカの世紀になる。
・最も重要な点は、アメリカが世界のすべての海洋を支配していることだ。
・アメリカはまだ若い国家で、やることは粗雑で間違いも多いが、実は驚くほど強力だ。
・20年前のソ連崩壊により冷戦が終わり、イスラム地域が急激に不安定になった。
・アメリカの基本戦略から見れば、イスラム世界が混迷さえしていれば良い結果なのだ。
・人口爆発は終焉し、世界の人口構造は大きく変化して、人々や国家の行動にも影響する。
・アメリカは、社会的には模倣され、政治的には糾弾されながら、さらに力を伸ばてゆく。
・次の紛争の火種は、東アジア(中国と日本)、旧ソ連圏、欧州、トルコとメキシコになる。
・そこには国家間の活断層がある。緩衝地帯の存在も見逃せない。
・2020年は、中国とロシアが最重要となるが、アメリカが支援したほうの国が勝利する。
・大方の予想に反して、中国は世界的国家にはなれない。成長が鈍ると政情不安になる。
・日本や各国が中国に経済進出を活発化すると、中央政府が失速して分裂するだろう。
・資源輸出国に生まれ変わったロシアは、コーカサス、中央アジア、欧州に力を向ける。
・すぐにアメリカが対応し、再び冷戦が起こる。ロシアはまた自壊して終わる。
・2020年代のロシアの崩壊と中国の分裂が、ユーラシア大陸に真空地帯を生み出す。
・その機会にアメリカと同盟した日本、トルコ、ポーランドが勢力を伸ばす。
・しかしこれはアメリカを不安にする。
・2040年代、アメリカは日本やトルコへの締め付けを厳しくする。
・これに対抗して日本とトルコは同盟を組む。一方アメリカはポーランドを支援する。
・アメリカは宇宙での軍事活動を本格化し、宇宙から制御する新世代兵器を導入する。
・日本とトルコ、アメリカは望むと望まざるとに関わらず、やむなく戦争に向かう。
・21世紀の戦争は、技術革命によって、宇宙を戦場とする新しい形になる。
・あるシナリオが示されている。戦争は世界規模になるが、お互いに壊滅を避けて終わる。
・戦争被害の最も小さかったアメリカが、またしても最も得をするだろう。
・2060年代、宇宙の商業利用を進めるアメリカは、ここで黄金時代を迎える。
・2080年代のアメリカは、過剰な移民に悩む。とくにメキシコからの移民だ。
・メキシコの経済力は大きく伸びる。石油があり、またアメリカから資金が流入してくる。
・経済大国となったメキシコは、アメリカの覇権に挑戦するだろう。
・地球温暖化は、人口爆発の終焉と、宇宙太陽光発電の実用化によって解決に向かう。
・アメリカは世界最大のエネルギー生産国で、ロボットや遺伝子工学で世界を席巻する。
・この技術革新は、伝統的価値観を揺るがし、宗教が衰えて社会の緊張が高まるだろう。

ざっとこんな具合です。ただ著者は地球環境問題にはほとんど立ち入ってはいません。エピローグの中で、その問題について人類はすでに解決策を用意しているはずだとしています。本書の主要テーマが、意図せざる結果を解明することにあるからです。
私たちの知りえないことは数限りなくあるので、すべてを網羅した、あるいは全く正しい100年予測などはあり得ません。多くの制約の中から、予想される行動やその結果をいくらかでも解明することができれば良いのです。したがって未来予測は必ず外れることになります。著者自身も繰り返し述べていますが、その結果の当否よりも、ここにある「前提」や「アプローチ」を知ることこそが重要なのです。本書でその妙味を存分に味わうことができるでしょう。
「21世紀こそがアメリカの時代になる」という予測は、対テロ戦争の泥沼化、中国やインドなどの追い上げ、その他さまざまな国際問題で、アメリカ外交の先行きに不安が高まっている現在、やや違和感はあることでしょうが、長期的な観点から見る本書には確かな説得力がありました。
今後増加するかも知れない巨大な自然災害に全く触れていないことだけは、すこし気になりました。しかしこれも本書の範囲を超えていたからなのでしょう。
著者は1949年に、ホロコーストを生き延びた両親のもとにハンガリーで生まれ、幼くしてアメリカに渡りました。コーネル大学で政治学を専攻し、教鞭をとりながらアメリカ軍や関係機関向けに安全保障や国防問題の講義や情報分析を行い、1996年に情報機関「ストラトフォー」を立ち上げました。この機関はその後、1999年のコソボ空爆、2001年の同時多発テロやそれに続くアフガニスタン侵攻など、アメリカ外交や戦略に深く関与し、「影のCIA」の異名を持つほど、各国政府、多国籍企業に絶大な影響力を持っているそうです。「了」

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