温室効果ガスが増加して様々な気候変動を起こし問題になっているが海への影響も深刻である。ニュースウイーク誌の8月26日号に「地球を壊す海の病―水産資源や生態系を脅かす温暖化の真の破壊力」という特集記事があったので抜粋して紹介します。
海水の酸性化と甲殻類のダメージ
静かに広がる海の「死の領域」:海の生物が減る原因は乱獲だけではない、深刻なのは温室ガスによる化学変化である。温室効果ガスの二酸化炭素は海水に吸収されて海面近くで化学反応を起こしてphを低くする。人間が放出する二酸化炭素の約3分の1は海に吸収される。
産業革命前の海水表面phは8.2だったが今は8.1まで下がった。対応次第では今世紀末7.8まで下がる可能性がありこのレベルは550万年前以来の低さになる。
アルカリ度が下がり海洋生物の力関係が大きく変わって食物連鎖にも繁殖にも打撃を与えている。カニやロブスターなどの甲殻類は殻のおかげで急速に酸性化する海水には耐えるが二枚貝の貝殻は溶けてしまう。
サンゴ礁の研究者が98年に発表したものによるとこのままアルカリ度が下がり続けるとサンゴの材料である炭酸カルシュウムを海水が腐食してサンゴが死滅しかねないという。サンゴ礁は魚類を含む海洋生物の25%の生存に不可欠なものです。
ph変化のもう一つの側面は海底に眠る安定なメタン化合物が分解されて大気中に放出される可能性があること。二酸化炭素よりも温暖化の影響は大きい。
海洋の自然環境の複雑な関係を研究する「海洋生物地球化学」という学問がある。しかし海水の酸性化の影響については領域が広大で生物間の関係も複雑で実態は何も分かっていないという。
デッドゾーンの拡大
酸欠海域をデッドゾーンと呼ぶが魚が住めずバクテリアなどの単細胞しか見当たらない区域である。各地で青緑色の渦巻きが湾の大部分を覆っている場所が目につくようになっている。原因は汚水や大気中の二酸化炭素、流失した化学肥料がプランクトンを増殖して大量の藻を発生させたもの。人間が海岸を改良して穏やかな浜を作ったことも変色部を大きくしている要因である。藻の悪影響は色や悪臭にとどまらずプランクトンが死んだときに生じる有毒物質で魚や海洋生物が死滅する原因になっている。死滅した藻類は海底に沈み腐敗の過程で酸素を消費し、無酸素のデッドゾーンを拡大する。ミシシッピー川のデルタは流域で使う過剰な化学肥料の影響で世界最大のデッドゾーンになってしまった。
都市の生活排水による汚染
人間への食糧供給基地だったバルト海が死んだのは大都市の排水や大規模養豚場からのスラリーの流入が原因だという。海は一見広大に見えるが大都市がいくつも存在して長年月汚水をため込めばどうにもならない死んだ海と化す。死んだ海藻に覆われた海は元に戻すことはできない。
氷が融けて海水面の上昇
イタリアの漁師が几帳面にも毎日海面水位を測定している。地中海の海水位が50年間に約9cm上昇していることを確かめている。この値は氷の融解による海面上昇を地球規模で計算した結果と一致している。
世紀末には魚が食べられなくなる
クラゲが海を征服する時代がやってくる。食物連鎖が崩壊すれば複雑な生物から絶滅していき最も単純なものしか生きられなくなる。各国の指導者の関心が海洋を保護する・乱獲防止の方策を講じる・保護海域を増やす・海洋生物の研究に資金を提供するといったところに向いてきている明るい兆しもある。(完)