「星の名前のはじまり」近藤二郎著2014年10月1日 吉澤有介

  ― アラビアで生まれた星の名称と歴史 

 現在、私たちが見ている星座は88あるそうです。それは1922年に国際天文学連合(IAU)の創立総会で定められました。星座の起源は、古代バビロニアで考案された星座をもとにして、ギリシャ神話によって脚色されたものといいます。

 しかしエジプトも、メソポタニアとともに非常に古い時代から独自の星座体系を持っていました。BC30年にクレオパトラが自殺してエジプト王朝は滅亡し、ローマ帝国の属州になりましたが、中心都市アレクサンドリアは、当時の学問研究、とくに天文学や地理学の中心地で、プトレマイオスなども活躍していました。彼の「天文学大全」13巻は、ヘレニズム時代の天文学の集大成とされています。エジプトの多くの学者たちは、ギリシャの数学や哲学、医学などを学んで、ローマ帝国の支配下にあっても、ヘレニズム時代以来の科学・技術研究を引き継いでいたのです。

 一般に、古代ローマは古代ギリシャの後継者であると考えられてきました。たしかに古代ローマの彫刻などの芸術活動は、古代ギリシャ彫刻を模倣したものです。しかし哲学や科学の分野では、必ずしも古代ローマは古代ギリシャを継承していませんでした。その大きな要因として、キリスト教の影響があります。4世紀になって公認されたキリスト教は、やがてローマの国教となりました。それが古代ギリシャの哲学や科学思想の衰退を招いたのです。キリスト教会は、古代の宗教をすべて異端として排斥しました。その結果、古代ギリシャの世界観や、真理を求める科学的な考え方は一切否定されてしまいました。

 一方、7世紀の初めにアラビア半島に生まれたイスラームは、瞬く間に中近東全域へ拡大してゆきました。彼らは、古代ギリシャの科学を積極的に吸収し、さらにインドやペルシャの数学や科学も融合させて、高度なアラビア科学を形成して大いに発展しました。

 11世紀末に開始された十字軍は、このアラビア科学に出会って驚きました。聖書の世界に留まっていたヨーロッパは、ここでようやく科学に目覚めたのです。

 本書では、天文学におけるイスラームの影響を詳しく述べています。星座の名前にもアラビア語が多く残りました。天体観測器具では、古代ギリシャでその原理が考案された「アストラーベ」が、イスラームで独自の発展をしています。イスラームは大先進国でした。

 星の名前では、オリオン座のペテルギウスにもアラビア語が含まれ、、おうし座のアルデバランもアラビア語です。さそり座のアンタレスはギリシャ語で火星のようなという意味ですが、頭と尾の星はアラビア語です。織姫のベガ、彦星のアルタイルも、また白鳥座のデネブはアラビア語の「尾」を意味します。カシオペア、アンドロメダなどの星座の名もアラビア語でした。全天で最も明るい恒星のシリウスは、シアラーからきています。北斗七星(大熊座)の柄の端にアルカイドという星があります。これはアル=カーアイド(指導者)に由来しているそうです。怖い名前ですね。 イスラームの科学の発展は、ギリシャなどの異教徒の文化にも寛容だったためでした。最近話題ののイスラム国は、ただの先祖返りとあまりにも違いすぎるようです。「了」

カテゴリー: 社会・経済・政策, 自然 パーマリンク