「ミツバチの会議」 トーマス・シーリー著 2014年9月23日 吉澤有介

  ミツバチはなぜ常に最良の意志決定ができるのか

 ミツバチの知恵については、今から約70年前、ドイツミュンヘン大学のカール・フォン・フリッシュの働きバチのダンスの発見で、広く知られるようになりました。働きバチが巣の仲間に、「尻振りダンス」で蜜のありかの方向と距離を教えているというものです。この発見は後にノーベル賞を受賞しました。著者は、ハーバード大学でその観察をさらに深めて、ミツバチの分蜂群がどのようにして新しい巣を見つけるかについて研究し、ミツバチが民主的意志決定をしている過程を明らかにしました。本書はその感動的な物語です。

 ミツバチは、晩春から初夏にかけてよく巣分かれします。これが起きると、コロニーの7割、一万匹ほどの働きバチが現在の女王と共に飛び立って、新しいコロニーをつくります。一方、元の巣に残った3割のハチは新女王を育て、元のコロニーを続けるのです。

 移住するミツバチは、近くの木に止まって大きな塊をつくり、数時間から数日に渡ってぶら下がります。その間にその宿無しのハチたちは、新しい巣をどこにするか、群れにとっての生死に関わる選択を迫られて、実に驚くべきことを実行していたのです。

 著者はミツバチの好みを探るために、さまざまな形の巣箱を場所を変えて252個も設置して、根気強く観察を続けました。もしコロニーがまずい選択をして、冬を越すための蜂蜜を蓄えるに小さすぎたり、寒風や捕食動物から守れなかったら全滅するのです。適度な広さと快適さと安全をどう見極めるのか。その決定は女王陛下でなく、数百の古参の働きバチによる探査委員会によるものでした。女王はコロニーの中心にはいますが、コロニーの労働力を維持するために産卵を続けるだけの存在なのです。そして生まれた働きバチは自分たちで役割を分担します。そこにはリーダーはいません。巣の業務は、働きバチたちによって集団的に運営され、それぞれの個体は自分で仕事を探し、コミュニテーのために働き、ちょうど体にある多数の細胞のように機能し、お互いに協調しているのです。

 新しい巣を求める数百の探索バチは、思い思いの方向に飛び立ち、そこで見つけた候補を、木にぶら下がった分蜂群に戻って、結果をダンスによって報告することがわかりました。満足できる良い場所を見つけた探索ハチは、大きく活発に踊るのです。やや難ありの場所を報告するハチは、小さく気の抜けたダンスをしました。複数の候補を比較していないのにです。どうやら彼らは自分の見た候補を絶対評価しているようなのです。著者の人工巣箱では、その大きさが40L前後で、出入り口の構造にも細やかな好みがありました。

 そして多くのハチが、より活発なダンスをしたハチを追ってその候補場所を確認し、自分も戻って活発に踊ります。次第にそちらの支持者が増えて、集団討議した結果、劣った候補を報告したハチへの支持者は自然に消えて、ついに一つの候補を確定したのです。
 ミツバチは、神が遣わした使者だという人もいます。探索バチたちは、民主的意志決定に当たって驚くべき手際を見せ、共通の利害を持つ個人からなる集団が、リーダーがいないのに、いかにその集団を効率の良い意志決定機関として機能するように組織するかという、実に意義深い教訓を私たちに与えてくれました。「了」

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