ロンドンだより その44:
ご承知の様に、9月18日のスコットランドでのイギリスからの独立を問う住民投票で、スコットランドの住民は独立反対を選択しました。
ことの始まりは、2年前にキャメロン首相が年々高まるスコットランドの独立機運を鎮めるべく、かねてからスコットランド民族党のサモンド党首から出されていた、住民投票の要請を受け入れ、住民投票を許可した経緯があります。この背景には、当時の世論調査でも独立賛成派はせいぜい30%位だったので、住民投票を行っても、独立反対派が圧勝し、その後は、スコットランド住民の独立機運は、落ち着くだろうと考えていた様です。
しかし、投票一ヶ月程前からスコットランド民族党の独立機運を高めるべく、草の根運動の成果が徐々に現れ始め、キャメロン首相の思惑はずれ、直前の世論調査の急激な賛成派の増加に政府を慌てさせました。急遽、国会論議を中断して、連立内閣の保守党、自由党と野党の労働党も結束して、三人の各党首はスコットランドに赴き、Let’s together with UKをスローガンにイギリスに留まる様に、各地を訪問し説得に努めて来ました。
投票は当日の夜11:00に締め切られました。BBCの開票速報は夜中になりましたが、BBC主導の世論調査で、午前4時ごろに独立反対票が過半数を占めるのは確実になったとの報道に、スコットランド各地の悲喜こもごもの映像が流され、そして、午前6時過ぎに、独立反対票が55%、独立賛成票が45%と正式な発表があり、独立運動を主導したSNPサモンド党首は敗北を認めました。
主要地域の住民投票の結果(BBC TVより)
地 域 投票者数(千人) 独立反対(%) 独立賛成(%)
エジンバラ(首都圏) 378 61 39
グラスゴー(労働者階層が多い工業地帯) 486 47 53
南ランキャシャ(イングランド境界地区) 261 55 41
北ランキャシャ(グラスゴー南近郊) 268 49 51
アバデイーン(北海油田基地) 206 60 40
フィフェ(グルフの聖地St.Andrewsがある) 302 55 45
スコットランド全体 3,600 55 45
投票率は85%
32のカウンテイ(行政地区)の内、独立賛成は労働者階層の多いグラスゴーを含む3つのカウンテイのみでした。その後、午前7時から、スコットランドの住民投票の結果を受けて,キャメロン首相の国民に向けての声明文の発表がありました。冒頭に、イギリスが一つの国であることが、確認できて嬉しく思っていると述べ、さらに、これでスコットランドの独立に向けた住民の議論は沈静化すると思うが、独立賛成票が過半数を少し下回っただけで、今後は人々の不満を解消するためスコットランドへの権限の委譲、特に、税制、歳出、社会福祉に関しての自治権の拡大を示唆しました。最後に、スコットランド住民による独立賛成、反対の厳しい議論の結果を乗り越え、イギリス全国民の結束して行くべきだと述べました。
懸念されていた、為替相場もスコットランドが独立すれば、通貨ポンドは下落し、イギリス経済に大きな打撃を与えると思われていましたが、ポンドは一時¥180/£まで上昇し、とりあえずは一安心と言ったところです。
キャメロン首相も今回のスコットランドの独立機運の高まりで、スコットランドに権限委譲を約束してきただけに、実際に国会や党内での合意を取り付け実行に移せるか、手腕が問われる様としています。
スコットランドはイギリスに留まると言うことになりましたが、独立賛成派だった住民は、現イギリス政権への不満をあからさまに出来たことは、極めて有意義であるとBBCの インタビューに答えていた映像が印象に残りました。スコットランド独立問題の次に控えているのが、イギリスのEUからの離脱問題です。
キャメロン首相は、来年5月のイギリス総選挙で保守党が勝利したら、EUからの離脱を問う国民投票を行うと表明しているので、これも気がかりで、やっかいな問題ですね。(了)