イワシはどこへ消えたのか  本田良一 中公新書

かつてイワシは、日本の総漁獲量の1/3を越えていました。
ピークは1988年(昭和63年)の448万トンです。
ところが1905年の総漁業生産量は2万8千トンへと減少してしまった。
昔の大衆魚の代表であるイワシは、その位置をサンマに譲っています。
現在日本近海でとれているイワシは、90年代にとれていた真鰯ではなく、
多くはカタクチイワシです。
マイワシは体長30cm迄成長するのに対し、カタクチイワシは体長10cm前後。
生息する場所、生育条件も同じではありません。
有名なペルーのアンチョビーはカタクチイワシの一種です。
急激なイワシの漁獲量減少の原因として、獲り過ぎは要因の一つである
ことは確かです。
もう一つの要因として取り上げているのが「レジーム・シフト」です。

東北大学農学部教授の川崎健さんは80年代に、日本米カリフォルニア、
南米チリのマイワシの漁量の変化に着目しました。

1986年のシンポジュームで
(1)極東、カリフォルニア、チリのマイワシの資源変動と気候変動が
完全に一致する

(2)黒潮域のマイワシとカタクチイワシ、フンボルト海流域のチリ・
マイワシとペルー・アンチョビーの漁獲量相互間に逆相関がある
事を発表した。
これを機に、関係各国の研究者を集めた
「レジーム・チェンジ・ワークショップ」を立ち上げ、
「レジーム・シフト」の概念を確立した。
日本周辺のマイワシは、冬日本の太平洋南岸域で産卵、北上し、房総半島
の東から三陸海岸沖へ回遊成長する。

資源が増えるかどうかは、孵化した稚魚の生存率に左右される。
マイワシが豊漁であった84年には4歳での生存率が1/10、98年には
1/100以下に減少している。

90年代マイワシ漁獲量の減少はここに起因すると見られる。
生残率は海水温に影響される。
魚の好適温度は、種類によって異なり、マイワシは16、カタクチイワシ
は22である。

アリューシャン低気圧が発達すると親潮が強くなり水温は低下、マイワシ
の適温になるが、低気圧が弱いとカタクチイワシの適温となる。

カタクチイワシの適温になってもマイワシほどには増えないのは、親潮が
弱いと、プランクトンの生育が十分に出来ないためである。
気候と漁獲量
の関係は、イワシだけでなく、サバ、スケソウ、サンマなどにも適応され、
適正な漁獲量の算定に結びつけることが望ましい。
地球温暖化が進んだ場合には、魚の好適温度が遥か北に移動して、日本近
海の漁業が壊滅する可能性も考慮しなければならない。
            記  藤田 良広

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