「エネルギーを選びなおす」小澤祥司 2014年5月22日 吉澤有介

  大量生産・大量消費・大量廃棄によって成り立つ現代産業文明を支えるエネルギーシステムは、資源と環境の制約をほとんど考えなくてもすんだ時代に出来上がったものでした。しかし現在のエネルギー浪費社会はすでに頂点を過ぎ、今後50年以内に大きなトレンドの変化が訪れることが必至なのに、まだエネルギーが文明の進歩と豊かさを支えているという人が多いのです。そのエネルギーについての議論も、ほとんどが電気に捉われています。自然エネルギーの重要性は理解しても、「電気をどうする」という20世紀型の思考枠からどうしても抜け出せないでいるのです。

 FITはその典型で、ソーラー・風力にバイオマス発電まで、とんでもない狂奏曲が展開しました。しかしさまざまなトラブルが発生した上に、発電しても電気が買い取ってもらえないという事態も起こりました。特にバイオマス戦略のずさんさは周知のとおりです。

 いわゆる「新エネルギー」振興政策において、バイオマスは太古から使われてきた「旧エネルギー」の燃料だったために極度に冷遇されました。日本では、代替エネルギーも先端的技術を優先する一方、古くからあるエネルギーの使い方を洗練させることには熱心でなかったのです。ヨーロッパではこの間、新しい燃料形態の開発や、ボイラーの効率向上に取り組み、太陽光や地中熱も加えたムダのない地域熱供給システムを構築し、伐採や搬出の効率を上げて木質バイオマスエネルギーの導入活用に成功していました。エネルギーフローで考えても発電は、投入したエネルギーの6割が損失となりますが、木質バイオマスでは燃焼効率90%以上のボイラーもあり、熱利用を主とすればエネルギー効率は格段に高まるのです。地域では低温熱へのニーズが多く、バイナリー発電も出来るからです。

 本書では、ヨーロッパ各国の地域主導型のエネルギー自給を達成した事例が数多く紹介されています。熱を売るエネルギーサービス事業もありました。その主役は地域なのです。

 遅まきながらわが国でも動き出した自治体があります。原発事故を経験した福島県では、県内の電力供給をすべて自然エネルギーにするというプランを打ち出しました。山梨県も続いています。しかし両県とも電気のみを検討していました。どちらも暖房・給湯需要が高いのに、まだ電気の呪縛から脱することができていないのが残念です。これに対して北海道の上川町は、まず熱利用から取り組みました。2030年までに森林産業を年間30億円規模にしてエネルギー自給を実現し、超高齢社会に対応した社会モデル「森林未来都市」を形成するとしています。山形県小国町では、ペレットストーブや薪ストーブの設置販売を手がけるローカルビジネス小国グリーンエナージーが着実に成果を挙げています。
 急速な人口減と老朽化するインフラに対応して「減設」も視野に入れた小規模の地域熱供給システムを構築してゆきたい。それには長い時間がかかることでしょう。しかし、すでにそれを達成したデンマークでも、整備をスタートさせたのは1950年代だったそうです。私たちは今からでも始めなければなりません。電気のプラグを抜くのです。「了」

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