「植物はそこまで知っている」ダニエル・チャモヴィッツ著2014年3月21日 吉澤有介

   著者はイスラエルのテルアヴィヴ大学教授です。植物の感覚とヒトの感覚は、それほど違わないのではないかと考えて、その類似性を追及しているうちに、植物特有の遺伝子だとばかり思っていたものが、ヒトのDNAの一部を構成していたことを突き止めました。これは全くの想定外のことでした 考えてみれば、動物なら暮らす環境をみずから選ぶことができるのに、植物はそれができません。さまざまに変化する状況に合わせて生長するために、動物と同じくさらに複雑な感覚機能と調整機能を進化させる必要があったのです。

 植物には、中枢神経で体全体の情報を調整する「脳」はありませんが、環境に最適化するよう各部位を緊密に連携させて、光や気温、大気中の化学物質などの情報を、根や葉、花、茎で伝え合っています。本書では、その感覚はどのように検知されるか、情報はどのように処理されるのか、植物にとって感覚はどのような生態的意味があるのかを、最先端の植物学で探っています。そのヒトの感覚との比較は、とても興味深いものでした。

 植物は私たちを見ているようです。ヒトの視覚と同じではありませんが、確かに光と色を感じています。ダーウィンはじめ多くの研究者の実験によって、遠赤外線を感じ、夜の長さも測っていることがわかりました。植物にとって光は食物なのです。その感覚はヒトよりもはるかに複雑でした。そしてクリプトクロムというヒトと共通の青色光受容体を持っていて、概日リズムに同じ役割を果たしていました。これは植物と動物が枝分かれする以前から生物に備わっていて、それぞれが別の視覚に進化していったからなのです。

 植物は自ら匂いを出していますが、周囲の匂いも検知しています。エチレンが果実を完熟させるのはその働きです。また自分の葉が虫に食われたとき、ごく微量の化学物質を出して周囲に知らせ、それを検知した仲間の植物が、いっせいに虫のいやがる化学物質を放出して食害を防ぐことも確認されました。植物にはお互いを感じる嗅覚があるのです。

 植物にはヒトの10倍もの敏感な触覚があります。つる植物やハエトリグサはその好例でしょう。とくにそのハエトリグサでは、記憶力まであります。小さな虫が毛に一度触れただけでは動きません。20秒以内にもう1本の毛に触れたら、これは大きな獲物とみてバネを閉じて捕まえるのです。その情報はカルシウム・イオン濃度の変化による電気信号で、最初の記憶を保持していました。エンドウ豆のつるも、巻きついた記憶を思い出します。

 植物は位置を感じています。芽は上向きに、根は下向きに伸びます。光のせいだけではありません。暗闇でも同じだからです。幹がまっすぐなのか、枝葉の位置も絶えず確認しています。これは細胞の中に重力を感じる平衡石があって、ヒトの耳石にあたる働きがあることがわかりました。その遺伝子に異常があるとシダレになるのです。またダーウィンは、どんな植物も生来らせん状に揺れながら動くことを発見しました。後に宇宙ステーションで、この運動が確かめられています。ただその動きは重力で加速されるのでした。

 植物は音を聴いているでしょうか。これはまだ確認されていません。ところがヒトにある難聴の遺伝子が、植物にも見つかったのです。やはり大昔のお仲間でした。「了」 

 

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