「植物のあっぱれな生き方」田中 修著 2014年2月8日 吉澤有介

  生を全うする驚異のしくみ 著者は甲南大学理工学部教授です。植物についてのやさしい著書がたくさんあるので、ご存知の方も多いでしょう。

 21世紀は、「植物との共存・共生の時代」といわれています。植物たちは、私たち人間と同じ生き物です。基本的に同じしくみで生きています。そして植物たちは、その祖先が海から上陸して以来、約4億年を陸上で生き抜いています。生きるために巧みなしくみを工夫し、不都合な環境に耐え、逆境をはね返してきました。植物たちのあっぱれな生き方に思いをめぐらせて、私たちが豊かに生きる糧にしたいと願うばかりです。

 植物たちの生き方の特徴は、「動きまわらないこと」です。正確にいえば「動きまわる必要がない」のです。動物たちは、まず食べ物を求めて動きまわります。さらに子孫を遺すために生殖の相手を探さなければなりません。その上に、過ごし易い環境を求めて移動します。私たちも含めて動物たちは、それらのために多大な時間を費やしているのです。
 しかし植物たちは、光合成という反応をすることで、エネルギーの源となる物質を自分でつくります。ですから動きまわる必要がありません。しかしもとのタネが発芽の条件に合わないときは、迂闊に芽を出さない。暑さ寒さに何千年も耐えます。そして「芽が出る」チャンスは逃がせません。大賀ハスや、ツタンカーメンのエンドウはその良い例です。

 また植物たちは、自分の持っている潜在的な能力を抑えてでも、とにかく与えられた場で生き抜く強さを秘めています。分相応に生きるのです。競争を避ける知恵もすばらしい。ヒガンバナは、花が咲くときには葉がありません。花の終わった冬にしっかりと葉を出して、誰もいない間に光合成して栄養を球根に溜め込み、他の植物が葉を茂らせる春にはそっと消えています。その球根の栄養で、花は秋の野にゆうゆうと咲き誇るのです。

 すべての動物は、直接植物を食べて生きています。植物はいつも食べられる運命にあるのです。でも植物は、先のほうにある柔らかい頂芽を食べられても、下にある葉の側芽を伸ばして生長することができます。若返りホルモンが働いてカバーするというわけです。

 植物の一番の大仕事は、やはり子孫を残すための婚活です。多くの植物の花には、オシベとメシベがありますが、多様な子孫で環境変化に備えるため、自家受粉はできるだけ避けたいので、そこにいろいろな仕組みが工夫されています。浮気を公認する、いわば家庭内別居のすすめです。お互いの位置をずらしたり、成熟の時期をずらしたり、その努力は涙ぐましいほどです。動物たちに手伝ってもらうための工夫もさまざまです。色香で惑わし、蜜でおもてなしをするのですから、人間にも心当たりがあるでしょう。その挙句どうしても受粉できないときには、最後の手段として自家受粉するという保険もかけています。子供ができないよりましという、それも見事な植物の知恵なのです。

 また植物にやさしい言葉をかけたり、音楽を聞かせるとよく育つといいますが、実験によれば、触ってやると確かに効果があるそうです。キクの栽培で撫でながら育てると、ずっときれいな花が咲くのです。植物にもやはり心があるのでしょうか。「了」

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