「日本はエネルギー大国だ」 山口裕史著 2013年3月29日 吉澤有介

  -海流発電・潮流発電- 

 2010年6月29日の昼過ぎ、明石海峡大橋下の海面下2mのところで、ノヴァエネルギー社の潮流発電機がゆっくりと始動して、全長6m、直径3mのマグロ型のタービンが発電を開始した。この日の潮流は秒速3mの弱いものだったが、最大1.6キロワットの電力を得た。鈴木清美社長の4年にわたる開発が、実用化の一歩を踏み出したのである。当面の目標は、明石海峡大橋の夜間ライトアップの電力を、すべてまかなうことだという。本書は、海流・潮流発電の開発に打ち込む鈴木の奮闘を克明に追ったルポである。

 鈴木は1952年、茨城県平潟の漁師の家に生まれた。早くから海に親しみ、ジョン万次郎に憧れ、船長をめざして小名浜水産高校に進み、冷凍船の航海士から36歳で念願の船長になった。この間に自費でアメリカ・ワシントンDCに語学留学もしたという努力家である。

 鈴木は世界の海を航行し、緊迫するホルムズ海峡などの中東の紛争地域をみて、化石燃料に依存する日本の将来を案じた。また航海しながら、海流の持つ巨大なエネルギーを実感したことから、海流・潮流発電を思い立ち,
10年間勤めた船長をやめて、新しい夢への挑戦に踏み切ったのである。
20075月、新会社ノヴァエネルギーを設立した。

 海を知り尽くした鈴木の考え出した海流・潮流発電の仕組みは、流水の力でタービンを回し、発生したトルクを完全無漏油圧ポンプで圧力変換して、油圧モーターにより発電機を回転させて電気を得る方法である。電力を効率的に取り出すためには、回転数よりもいかに大きなトルクを発生させるかがポイントになる。水の流れが作用する力には、抗力と揚力があるが、現在各国で開発しているプロペラは、揚力だけを利用している。鈴木は、プロペラの形状を工夫して、抗力も捉えるようにした。これでごく弱い水流でも回転が始まるので、発電効率が高まるだけでなく、あらゆる海域に設置できるチャンスが拡がった。

 鈴木の構想では、黒潮本流の流れる東シナ海で、2000KW型の海流発電装置を800基設置し、合計160KWの電力を生み出す。その1ユニットには、全長120mの垂直に伸びた大型ブイに、全長30m、直径18mの、500kwの発電能力を持つ、マグロ型をした大型タービンを4基を、ユニバーサルジョイントによって鯉幟のように吊り下げる構造である。各国の海底に固定する型に比べて、流れの方向変化にも対応し、海底地形による乱流もなく、メンテナンスも容易というメリットは大きい。そのまま潮流への応用も可能である。

 しかし海流の動きは複雑だから、実海域での実験が欠かせない。そのための資金が問題だ。わが国の再生可能エネルギー政策には、海流・潮流発電は一切含まれていない。世界各国では、続々とこの分野に参入している。とくに英国と韓国の取り組みは本格的だ。 資金難で苦労している鈴木を、韓国が高く評価して共同開発の打診があった。だが日の丸にこだわる鈴木の思いは複雑だ。ようやく環境省の助成を得たことで、国産化の道が拓けてきたが、まだ課題は多く先行きは厳しい。助成金は後払いで、つなぎ資金調達には銀行が応じないから実効がない。膨大な海のエネルギーを次の世代に生かしてゆくために、現実の厚い壁に阻まれながらも、鈴木は3人のスタッフと共に今も奮闘を続けている。turbin_image.pdf「了」

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