「ゲッチョ先生の卵探検記」盛口 満 2013年1月12日 吉澤有介

   すでにおなじみのゲッチョ先生こと盛口さんは、飯能にある自由の森学園で15年教師をして沖縄に移住しました7年間フリーな立場でスコーレなどいろいろな学校で生物学を教えて、現在は沖縄大学の先生になっています。これはスコーレからの愉快な報告です。

 先生の授業はいつも教科書で教えるのではなく、自分も初めての現物を対象に、生徒たちと一緒に勉強して、あたらしい発見をしてゆきます。今回もタマゴというテーマで、まず鳥類最大のダチョウのタマゴを教室に持ち込みました。しかもそれを茹でてみんなで試食しようというのです。初めての経験に、生徒たちはもう大騒ぎです。2時間茹でてトンカチで丁寧に割ってふたつに切りました。目方はちゃんと計測しています。全体で1260g、殻と卵殻膜を除いた中身が990g、そのうち黄身が250gでした。同時に普通のニワトリのタマゴも測定して比較します。これは全体で56g、中身は50,4g、そのうち黄身が15,2gでした。ダチョウのほうが白身の割合が大きかったのです。味の評価もいろいろで、教室はおおいに盛り上がりました。親の大きさとタマゴとの比率、黄身の割合を、もっと小さいウズラのタマゴでも比較しているのですから、研究はもうすっかり本格的です。

 先生はさらにダチョウの死んだヒナを手に入れて、タマゴとヒナの関連まで調べました。ヒナにとっては白身は水分を蓄える水筒で、黄身はお弁当、さらにトイレの仕掛けまであったのです。これこそ生きた学問というのでしょう。

 鳥の先祖は恐竜です。進化を重ねてニワトリになりました。私たちが食べているそのタマゴは、ニューモデルだったのです。逆にもっと先祖に遡れば、サカナのタマゴになります。イクラやタラコ、それにキャビアまで調べました。産卵数、大きさなどその意味も考えます。ヘビやヤモリの卵も登場しました。ヘビの卵には白身がなく、黄身だけなのだそうです。それでなぜ水不足にならないのか。土中に生んだ卵は、土から水分をとっていました。なお爬虫類には卵でなく胎生の種がかなりあるそうです。進化の途中で行きつ戻りつしたという仮説まで出てきました。その境界は結構ルーズだったのです。

 先生は恐竜の卵も欲しかったそうですが、東京の店で中国産が105,000円であきらめました。昆虫なら身近です。カマキリの卵を生徒に配って観察します。しかも焼いて食べてもみました。ナナフシの卵の生態も興味深い。日本には20種もいるそうですが、先生のスケッチはいつも実に精妙です。カマキリやナナフシは生まれたときから親と同じ形をしています。サナギのステージを持たない不完全変態の昆虫なのです。チョウやカブトムシなどはサナギになります。より進化した完全変態ですが、なぜサナギの必要があったのか。
 昆虫が陸上に進出したばかりのころには、天敵もいなかったのでしょうが、やがて爬虫類や両生類が出現すると、食べられる一方です。そこで選んだ道が、小粒の多産でした。小粒では栄養が足りないので途中で孵化せざるを得ない、しかし成虫になるまでにまだ体つくりが必要で、そこでサナギになったという説があるそうです。卵探検の奥はとても深いものでした。「了」

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