たいへん刺激的な題名ですが、著者はケンブリッジ大学教授で、宇宙論・宇宙物理学の世界的権威です。その彼が、21世紀に現れる新しい脅威について語っているので、これはただ事ではありません。核戦争や地球温暖化といった、20世紀から危惧されていたものとはまったく別の、予想外の脅威による人類文明終焉のシナリオなのです。
そんな新しい脅威のなかには、すでに現実と化したものもあれば、まだ憶測の域をでないものもあります。空気感染する「人工」殺人ウィルスで人類滅亡ということもありうるし、現在よく使われる薬物よりもはるかに効果的で、目的どおりに効く新手の技術が、人間の人格を変えることも考えられます。そのうち不気味に増殖する凶暴なナノマシンや、高度な知能を持ったコンピューターが、人類を恐怖に陥れることになるかもしれません。
また原子同士を高エネルギーで衝突させる実験が連鎖反応を起こし、地球を全滅させる可能性もあります。その波紋が光速で広がってゆき、宇宙全体をのみこんでしまうことも全くないわけではない。そのような実験が許されるか、一体誰が判断するのでしょうか。
冷戦時代の一番の不安であった核兵器は、廃棄できるとしてもその発明をなかったことにはできません。核の脅威は消えないのです。その脅威のもとは、現在では国家ではなく、高度な科学技術を手にいれた個人や小集団でしょう。また致死率の高いウィルスのDNA配列情報は、いまやだれでもインターネットからダウンロードできるのです。その分野の技術を持った科学者は世界に数千人存在し、その数は年々増えています。個人が人類を滅ぼせる時代がやってきたのです。このようなテロを、果たして防ぐことができるでしょうか。
さらに人間の活動がもたらす環境変化も、地球史上6番目の大量絶滅を引き起こす恐れもあります。大量絶滅といえば、小惑星の衝突がありました。1994年7月には、何百万人の人が過去最大の「衝突」ショーを見守りました。巨大な彗星の破片が木星に次々に衝突したのです。この衝突は前年に予測されていました。それが現実となったのです。この出来事は、地球にも起こりうることを浮き彫りにしました。巨大なものは数年前に予告できるそうですが、直径数キロメートルの小型になると、かなり怪しくなります。外れてもらう技術を開発するまでは、予告がないうちだけ安心ということしかないのです。いずれも悲観論ばかりのようですが、本書では人類の地球脱出の可能性も論じています。
地球の終わりは宇宙の終わりなのでしょうか。ここで一番の課題は、生命とはどういうものか、地球外にも存在するのかということです。私たちの宇宙はじつのところ生物にとって住み心地がよく、すでに生命で満ち溢れているのかも知れません。もしそうなら人類絶滅も地球の大事ではあっても、宇宙の一大事にはあたらないはずです。しかし生命の誕生の可能性はかなり低いらしい。宇宙的視点に立てば、宇宙に浮かぶこの青いちいさな星を大切にしようという意識が高まることでしょう。広大な宇宙には無限の未来があるはずです。人類はいま史上最大の危機に瀕しています。果てしない未来が拓けるか、不毛の地球と化すか、そのカギは今世紀の私たちにあるのです。「了」