副題 「脱原発と温暖化対策の経済学」 (要約) 吉澤有介
本書は2008年の洞爺湖サミットからスタートした北海道大学の研究プログラムを一般向けに編集したものである。その調査執筆のためドイツにいたときに、あの東日本大震災が発生した。日本における再生可能エネルギーの見通しと、持続可能な社会をつくる具体的要請が、一そう緊急度を増してきている。災害からの復旧が急がれるが、旧に復してまた同じような事態に陥ってはならない。将来にわたる持続可能で、安全な国づくりと、生活の再建が求められている。
今回の原発事故によってフクシマは、かってのヒロシマと同じじように、歴史に残る変換点となることだろう。脱原発は確かに厳しい課題だが、ここで求められるのは政策の方向性である。その制度と技術は、すでに世界に存在している。
本書に流れるキーワードは、一貫して「制約なくして革新なし」である。先行するEUやドイツの事情を紹介している。デンマークは再生可能エネルギーの分野では、世界の最先端を行く。そのきっかけは第一次オイルショックであった。当時のエネルギー自給率は2%に過ぎなかったが、その後国を挙げてエネルギー自給に取り組み、現在は自給率100%を超えている。その主役は再生可能エネルギーで、とくに風力が大きい。その結果、風力タービン生産は世界市場の三分の一を占めている。また風力、太陽光、波力などの自然エネルギーに対して、これまで利用されてこなかった新エネルギーとして廃棄物やゴミなどのバイオマス利用が進み、熱電併給で効率を高めて、全エネルギー消費の10%にも達した。これはエネルギー環境省が、環境政策としてすべてを一括して担当していることで実現したのである。技術や現場の問題ではない。政策のあり方でできたのだ。ドイツも少子高齢化の問題を抱えながら、グリーンエコノミーの分野でめざましい進化を続けている。風力や太陽光だけでなく、バイオマスについては、全国に6000のガスプラントを持ち、家庭用電力の10%を賄う。ここでも環境問題と廃棄物が連携し、しかも雇用の拡大に貢献している。ドイツは早くから社会保障と税の一体化の改革を目指した。
それまでは企業は労働者を雇用すると、年金負担の義務で罰せられ、機械化で省力すると年金負担が減る。つまり化石燃料にたよる機械化で得をするという、環境破壊のインセンテブが働いていた。そこで労使の年金拠出額を引き下げて、その分を一次エネルギーへ環境税を課する改革を進めた。エネルギー価格の高騰は省エネを促進する。これはドイツ人の経済感覚にも合っていた。制約こそがイノベーションを刺激するのである。
日本でも自動車の燃費向上で大きな成果をあげている。環境対策と再生可能エネルギー活用と、雇用まで含めた総合的な一貫した政策を確立することが急務であろう。
巻末には索引も完備して、政策を考える良い参考になる。一読をお勧めしたい。
著者は1950年生まれ、東京都立大学経済学部卒、京都大学大学院経済学研究科博士課程終了。現在は北海道大学大学院経済学研究所教授で、環境関連の著書が多い。「了」