地球最後の日のための種子 S・ドウオーキン著 文芸春秋  

本書の扉には次のように記されています。
北極圏の凍土の地下にある種子銀行、「地球最後の日のための貯蔵庫」。
そこには
300万種の作物の種子が保存されている。植物の遺伝情報を保護し、世界が
滅びても農業が再生できるように。
世界の辺境をめぐり、無数の作物の種子を集めることで、植物の多様性を守ろうとし
た、伝説の植物学者ベント・スコウマン。
「誰もがアクセスできる遺伝情報」を目指す彼は、特許によって遺伝情報を私有しよ
うとするバイオ企業と衝突し
—-

現代の植物学者の苦悩が、世界の食料を守る。
「地球最後の日のための貯蔵庫」として結実するまでを追う科学ノンフィクション。
本書は、作物の多様性を守ることが食料を守ることにつながるという話を、デンマー
ク人の植物学者スコウマン(
1945?~2007)の伝記のかたちで描いています。そもそも現代農業で栽培されている作物は、長年にわたって品種改良を重ねてきたひ
とつの種のクローンが一般的で、遺伝子的に単一化の方向にあります。
そのために一度その品種が耐性を持たない病原体が出現したとき、世界的に壊滅的な
被害が起きてしまうのです。
その対策としては、過去の品種や原生種、更にそこから派生した多くの種の中から、
その病原菌に強い品種を探し出して転換していくしかありません。
そのためのコレクションとして「種子銀行」あるいは「遺伝子銀行」が必要になって
くるのです。

そこには世界中のありとあらゆる種子が貯蔵され、保存されています。
現実に発生した小麦の恐ろしい病原菌の撲滅に大きな役割を果たした機関に、メキシ
コに拠点を持つ国際トウモロコシ・コムギ改良センター(
CYMMYT)がありました。
スコウマンはそこで大きな活躍をしたのです。

一口に「多様な遺伝資源を収集し、保全する」といっても、それは容易な仕事ではあ
りません。多くの作物の原種やその派生種は、だいたいが中東、チベットや南米など
の辺境にあります。
スコウマンは「世界から飢えを一掃すること」のために、再三苛酷な遠征をおこない
ました。
また収集保全した種から特定の耐性をもつ種を選び出す仕事も、たいへんな苦労を伴
います。しかしその効果は絶大なものでした。
ところで彼に密着して協力した二人の日本人科学者がいました。
田場佑俊氏と岩永勝氏で、ともに多大の貢献をしています。
その機関が、いまの「種子銀行」に発展したのです。
膨大なデータベースは世界中の誰もがアクセスできる、オープンなものでなければな
りません。
しかし一方で知的財産権を主張するバイオ企業との軋轢が問題になっています。
それはまた先進諸国と、遺伝資源を持つ発展途上国との対立をも引き起こしている
のです。
遺伝資源、遺伝情報は誰のものか、国際生物多様性年の主要な議題の一つにもなり
ました。スコウマンの遺志を生かす国際的枠組みが求められています。
いつどこで発生するかわからない恐ろしい病原菌への備えは、まさに世界の人類の
運命に関わっているのです。
「了」           記 
20111028日  吉澤有介 

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