孤独な宇宙の必然としての人間
本文509ページ、索引と注釈を含めると724ページの大著である。訳者あとがきの
一部だけを紹介しよう。
著者モリスは「私たちがなぜ進化したのか、科学的に答えることはできない。
哲学でも、神学ですらも」と述べている。
科学はもちろん、神学も含めて学問的に問うことのできるのは、私たちがいかに進化
したかであり、その根底にある私たちの存在理由の追及は、ある種の宗教的直感に委
ねられた領域だろう。
本書では、数々の収斂進化の実例のもとに、人間(あるいは知的存在)の進化が必然
であったことが述べられ、さらにこのことが「神による創造という概念」と矛盾しな
いという、まさに宗教的な直感が語られている。
たしかにバージェス頁岩から出た、さまざまなカンブリア紀の動物以来の進化の過程
をみると、異なる種がそれぞれ同じような方向に収斂進化している。
そもそも地球生物の誕生が、宇宙から来た物質による奇跡的な幸運に恵まれたもので
あり、その経過も最新の科学的成果を踏まえて詳細に述べられている。
宇宙人の可能性もありうるが、現在私たち人間が存在するのにも必然性がある。
その進化の方向についても、ある環境的な要請があれば、系統的出自がどこであれ、
生命はその要請に合わせて適応してゆくのだ。
ここには飛躍的進化や偶発性があるわけではない。
多くの古生物学的証拠はそのことを証明している。モリスはここに宗教的メッセー
ジをこめているが、本書は科学的生命論としても、壮大な宇宙論としても十二分に
読み応えがある。
著者は1951年生まれ、ロンドンに育ち、ブリストル大学からケンブリッジに進み、
現在同大学教授、専門は古生物学、カンブリア紀の痕跡をとどめるバージェス頁
岩動物種の研究で知られる。
著書には「カンブリア紀の怪物たち」があるので、読んだ方も多いだろう。
「了」
2011年8月30日 吉澤有介