ミクロな化石、地球を語る 谷村好洋著 技術評論社 

知りたいサイエンスシリーズの一冊です。
2010年南アフリカで、32億年前に生きていた有機物の殻を持つ微生物の化石が発見さ
れました。
真核藻類かとみられていますが、まだ確認はされていないそうです。
真核藻類としてはすでにおよそ
20億年前の「グリバニア」が見つかっていました。
最古の酸素呼吸をした生物です。
同じ真核生物で単細胞の植物プランクトン「アクリターク」も古生代に栄えていまし
た。酸素呼吸をする真核生物の出現には、大気中の酸素濃度が現在の
100分の1程度ま
で増えていることが必要とされるので、次のようなシナリオが考えられています。
 「少なくとも27億年前に出現した酸素発生型の光合成をする原核生物シアノバクテ
リアによって、原始大気の組成が変わった」
→「酸素が大陸縁の浅海から大気に、そして深海に満ちていった」
→「その過程で酸素呼吸をする生物が出現した」というものです。

 近年になって深海底の堆積物の調査が急速に進み、採集したコアからのプランクト
ンの化石(微化石)の種類で、その出現や絶滅の様子を知るとともに、地球の磁場の
変動と照らし合わせて、それぞれの年代を確認できるようになりました。
 その結果、地球史上の大きな出来事について、その時期を証明するまでに至ってい
ます。
例えば世界中の海底の年代を調査して、海洋底拡大説に確実な証拠を提出しました。
また
1997年にはフロリダ沖の海底から5本のコアを採集分析して、高濃度のイリジュ
ウムを発見し、すでにイタリアで発見されて
1980年にサイエンスに仮説として発表さ
れていた小天体の衝突説を、
6550万年前の大事件として証明しました。
直径
10km、重さ2500億トンもある巨大な天体がユカタン半島に衝突し、マグニチュ
ード
11の地震と、数百mの高さの津波が発生したことを裏付けたのです。
その結果、白亜紀と古第三紀の境界で、恐竜はじめ
60%もの種が絶滅したといいま
す。このとき石灰質の殻を持つプランクトンのハプト藻はほとんど絶滅しましたが、
有機物や珪酸質の殻を持つグループの珪藻や過鞭毛藻は生き残りました。
休眠胞子が深い海底に沈積して環境悪化を乗り切ったのでしょう。

 淡水域にも微化石がたくさん見つかっています。
1971年にアメリカの調査船が日本海の中央にある大和海嶺から採集したコアから、
淡水にしか生息しない珪藻群が発見されました。
つまり数百万年前の日本海は淡水湖であったというのです。
その淡水珪藻のラカストリン・アクチノキルスが能登半島に珪藻土として露出してい
ます。
1500万年前までに堆積したものだそうです。
ただその後この珪藻は突然衰退したようですが、その実態はまだわかっていません。
これからの研究分野とのことです。

 この本で紹介された微化石の顕微鏡写真は、実に多様で見事な姿をしていました。
大型化石の影に隠れていた微細な化石を調べると、先カンブリア時代以来の地球の
歴史がわかるという雄大な話が、豊富な図版とともに詳しく紹介されています。

著者は
1949年生まれ、東北大学大学院博士課程終了の古生物学者で、国立博物館地
学研究部環境変動史研究グループ長。

                                        記  201181日 吉澤有介      「了」

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