「意識の川をゆく」 オリヴァー・サックス著、太田直子訳、早川書房2018年8月刊 2019年2月1日吉澤有介

脳神経科医が探る「心」の起源—著者は、現代医学の偉大な語り部ともいわれるイギリスの著名な神経内科医です。ニューヨークで活躍し、多くの著書がありますが、惜しくも2015年に85歳でガンのため亡くなりました。本書はその遺作で、生命の起源から心と意識の流れの本質を熱く語っています。

ダーウィンは、「種の起源」に続く植物学研究における緻密な観察と実験で、植物と昆虫の「共進化」を突き止めました。「種の起源」では、人間の進化について、ほかの動物と祖先を同じくすることへの言及を、極めて慎重に避けています。「創造説」への異端とみられるからでした。しかし植物の進化となればその心配は少なく、ランの研究などで進化と自然選択の揺るがぬ証拠を見つけたのです。著者は、彼の晩年の「ミミズの研究」がお気に入りでした。ミミズは感覚を持ち、脳神経細胞群によって素早く行動しています。フロイトも、熱心なダーウィン信奉者でした。原始的な脊椎動物のヤツメウナギと、無脊椎動物ザリガニの神経細胞を比較して、それらが基本的に似ていること、人間にも近いことを明らかにしました。ニューロンを構成する神経細胞体は、最も原始的な動物から人間まで、本質的には同じで、違うのは数と構成だったのです。ダーウィンはまた植物と動物が近縁であると主張しています。実際に、細胞間の信号伝達は、電気的、電気化学的変化に依存していました。

フロイトは、もともとは神経解剖学者でした。当時は脳神経局在論が盛んで、脳の特定部位がそれぞれ機能を受け持っているとしたのです。彼は、その単純な機械論には不満で、臨床神経科となりました。神経科の診察を続けるうちに、フロイトの好奇心、想像力は高まり、さらに複雑な知的課題に挑戦してゆきます。彼を捉えたのは脳の動的なイメージでした。

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