森からの手紙 (飯能博物誌) 盛口満  創元社 

著者は62年千葉県生まれで、千葉大理学部生物学科を出て、85年より飯能市小岩
井にある自由の森学園中・高一貫校の理科教師となり、生物を担当しておられま
す。自由の森学園は、明星学園の創立者がつくったユニークな森の学校です。
そこで著者は身近な飯能市の動植物について、スケッチ入りの理科通信を始めま
した。
10年間で700号を超えたというから凄い。そのなかから100編をあつめたのが本書
なのです。自分でやりたかったことをのびのびと発信しているので、どこを読ん
でも楽しく、またあたらしい発見があります。
このような先生に学んだ生徒たちはどんなに幸せなことでしょう。

  ここではまずムササビが登場します。はじめ高尾山まで観察に出かけていま
したが、気がついてみると学校のまわりにもムササビたちが棲んでいたのです。
神社やお寺の老木の幹に巣穴があって、日暮れになると木から木へと飛び移りま
す。能仁寺もよい観察場所でした。
それに学校の近くの古道具屋がムササビを飼っていたので、その生態観察はます
ます詳細になってきました。
それぞれのスケッチが実に楽しく、マドンナなどの名前もつけたムササビたちは
のびのびと行動しています。飯能はムササビ天国だったのですね。

 この森からの手紙は、学校にやってきた鳥たち、キジバト、アオバズク、ヤマ
ドリ、キジ、などなどのさまざまな出会いと詳細な観察、さらに サンショウウ
オ、カエル、ホタル、ミノムシなどの小動物にも暖かい目が注がれています。
とくに糞虫たちをファーブルのフンコロガシにならってフンコロガサズと呼び、
細かくスケッチしながらその生態にせまっている様子はまことに楽しいものでし
た。
 

植物についても観察は続いています。フジの花とハチたちの関係は実に微妙でし
た。フジの花はどうやらクマバチだけと専属契約を結んで、蜜と花粉を交換して
いるようなのです。
それは花弁の構造からきているらしく、ほかの身体の小さいミツバチやマルハナ
バチは、花弁の正面から蜜を吸うことができないのです。
ところがフジと契約できなかったこれらの小さなハチたちは、フジのツボミに馬
乗りになってガクの横から穴をあけて、そこからこっそり蜜を吸い取っていまし
た。つまり彼らは契約違反をしていたのです。ここまで細かい観察をすると、ま
たあたらしい世界が開けてくるのですね。
キノコや雑木林など話はつきません。飯能の森からこのような楽しい手紙が送ら
れていたとは、うかつにも知りませんでした。
この続編を探すことにしましょう。
「了」    
 
20113. 5  吉澤 

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