「ウニはすごい バッタもすごい」本川達雄著 2018年10月14日 吉澤有介

-デザインの生物学- 中公新書2017年2月刊
著者は、歌う生物学者としてお馴染みの、東工大名誉教授です。本書では、さまざまな動物の体のつくりを紹介して、また新しい世界を見せてくれました。
まずサンゴの話から始まります。サンゴは動物ですが、その体は実にユニークです。個体はポリプと呼ばれる径1cmほどの円筒形で、下面は岩などに固着して上面に口があり、その周りの触手の先端から毒のある刺胞を発射して獲物を捕らえます。射出速度は時速60㎞にも達し、生物界最速の反応の一つです。サンゴはイソギンチャクなどと共に、刺胞動物門に分類されています。二胚葉の原始的動物ですが、自分の体の外側に石灰質の殻をつくり、無性生殖でお互いにつながって群体を構築します。ポリプが数十万個も集まる造礁サンゴで、そのもう一つの大きな特徴として体の中に藻類を共生させています。熱帯にあるサンゴ礁の海は綺麗過ぎて栄養分が少ないのに、たくさんの生物が棲んでいる。その謎は、サンゴの体内に共生する褐虫藻の働きにありました。生物学者の川口四郎が発見したのです。
褐虫藻はサンゴという安全な棲みかにいて、サンゴの排泄物のリンや窒素をもらい、サンゴの呼吸から二酸化炭素を利用して光合成し、グリセリンなどの栄養をつくります。サンゴはその大半をもらい受け、同時に排出される酸素で呼吸します。共生の利益は多大で、サンゴは大量の栄養豊富な粘液を分泌して、多くの生物を養っていたのです。近年その褐虫藻が海水温の上昇で急減して、サンゴが死滅する白化現象が大きな問題になってきました。
動物の中で、種の数、個体数ともに一番多いのは昆虫です。節足動物門に属し、エビやカニの仲間で、彼らもまた海中で最も繁栄している動物です。その秘密は、キチン質の外骨格という体内を保護する体のつくりにありました。昆虫では乾燥を防いで、陸の成功者となったのです。その材料は三層構造のクチクラという有機物で、繊維強化複合材料として軽くて強い特性があります。細長い脚や薄くて広い羽をつくって、大きな運動能力を獲得しました。クチクラは自在に柔らかくもできるので、簡単に関節をつくれたことも効いています。
昆虫の飛び方には、トンボのように大きな羽をゆっくり動かすものと、ハチのように小さな羽を激しく動かすものがあります。トンボなどは胸にある筋肉を使いますが、ハチなどでは、胸部を共鳴箱にしてバネ振り子の原理で背板の筋肉を激しく振動させ、少ないエネルギーで長距離を飛ぶようになりました。またバッタは大きく跳躍します。関節部のクチクラがバネの働きをしているのです。なお飛ぶためには瞬間的に大量なエネルギーが必要ですが、昆虫は特殊な気管で酸素を供給するシステムを開発しました。さらに花粉の運び手として被子植物と共進化したことも種の数を増やす元になっています。ただクチクラの外骨格は、成長するために脱皮しなければなりません。また幼虫から蛹、成虫へと変態しますが、昆虫にとっては、環境に適応した極めて合理的な生き方でもあるのです。巧みな生存戦略でした。
著者は、さらに軟体動物で貝の対数螺旋、棘皮動物ではヒトデが星形のわけを考察します。
最後にそれらの動物たちと私たち脊椎動物との比較で結んでいました。どの動物も独自の世界を持っていたのです。この内容は、東工大での講義をもとにしたものでした。「了」

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