1.はじめに
日本には固有の竹と中国から渡って来た孟宗竹などがあります。これらの竹は地球温暖化の影響で繁殖拡大の傾向があります。それに拍車を掛けているのは人間が竹林を放置していることです。従来は人間が筍を食べたり、物干し竿にしたり、垣根にしたりして数多くの用途に使っていましたが、現在ではプラスチックなどの代用材料が出現し、竹があまり使われなくなりました。筍を中国から輸入する有様です。
このまま放置すると竹林が森林を侵食して、大切な木材の生産を阻害します。終戦後に一斉に植林した針葉樹が今や建築材料として立派に育っており、これからが活用する時期を迎えます。成長速度の速い竹林は森林が育つより早く里山全体を覆います。そこには森林が育たないばかりか、生物の多様性が失われます。そして害獣の隠れ家になるのです。
放置竹林の中を覗いてみましょう。枯れた竹が足の踏み場も無いほどに倒れています。
そこには陽が差し込まないので暗く、地面には下草も生えません。(写真左)
一方、整備された竹林は綺麗なものです。適当に陽が差し込み、青空が見えたりします。若竹の緑は気持ちが癒されます。(写真右)
放置竹林が洪水の原因にも 新潟民放TVが取材
さあ、竹林を綺麗に整備しましょう。
でもどうやったら良いのでしょう?それには竹を沢山消費する仕組みが必要です。
結論を言いますと、伐採した竹を焼いて炭にし(以後竹炭と呼びます)、それを土壌改良材として大量に消費するのです。
2.竹林整備で日本を救う
(1)森林を救う
最初に述べましたように、木と竹との成長速度の違いを比較してみましょう。木は30~50年掛けて一人前になりますが、竹は0~5年で利用可能になります。もちろん0年で利用できるのは筍ですね。孟宗竹の根は1年で8m延びると言われます。家の庭に突然筍が出て驚かされます。(写真左)竹はこのように成長速度が速いので、森林が成長する前に山を覆い尽くします。竹林によって森林は駆逐されるのです。(写真右)この逆はありません。現在の日本では人間が関与するしか森林を守る方法は無いのです。つまり、竹を大量に伐採して竹炭を作る仕組みができれば、森林は守ることができるのです。
庭のポリバケツを持ち上げた筍 杉林に迫る孟宗竹林
(2)土壌を救う
竹炭は土壌改良材に位置付けられます。直接的な肥料ではありませんが、土質を改良します。でもそれはどういうことでしょうか?人類の先祖の暮らしを想像してみてください。人類は最初、森林の中で採集生活をしていました。次に狩猟生活をしました。そして農業生産に移行したのです。その時祖先の人々は焼畑農業を始めました。森林を燃やすと木炭や灰ができます。どうやら焼畑は森林を切り開くという目的の他に、切り拓いた土地を農業に適した土壌に改良する役目があったようです。最近判って来たことですが、あのアマゾン川流域の熱帯雨林に大規模な焼き畑農業の痕跡が発見されたそうです。
その後人類は有機肥料を用いて農作物を栽培してきました。つまり、植物が土に帰って、あるいは植物を動物が食べた排泄物が肥料になるのです。終戦後にアメリカから化成肥料が入り、農家がそれを利用するようになりました。農家は施肥作業が楽になって喜びました。お金で肥料が買えるので化成肥料を金肥えと呼びました。金肥えは植物に必要な化学元素を直接供給するので即戦力の効果を発揮して、作物の収量を増やしてくれました。
しかし、金肥えは土中の有用な微生物を住めなくしてゆきました。そのような土にはミミズがいなくなり、土はサラサラとして団粒化しなくなり、固くなってしまいました。その結果、作物の収量は少なくなってきたのです。また病気が発生しやすくなりました。
そこで篤農家が有機栽培、あるいは自然農法を提唱するようになりました。無肥料・無農薬で作物が採れると主張しましたが、収量はいまいちでしたので、一気に広まることはありませんでした。農家は金肥えと農薬の出現で農作業が楽になったのです。それを完全に元の重労働に戻そうと考える農家はいません。ましてや今は兼業農家が多いのです。
今までに述べてきたように、日本の土壌は金肥えでやせ細っています。それを元々の有機農業に近づける働きが竹炭にはあるのです。しかも竹炭を含んだ土地は適度に水分を含み、夏の旱魃にも耐える地力を持つようになります。
(3)動物を救う
動物も人間と同じく、消化器系等の病気になり命を落とします。竹粉には乳酸菌が繁殖し、竹粉を食べると乳酸菌の整腸作用で動物が健康を維持できることが知られています。(写真左)竹炭でも同様のことが予想されます。竹炭粉を配合した食べ物は数多く作られていますので、害のないことは明らかです。竹炭がその構造から消化器内の悪い菌を集めて体外に排泄するという効果は想像できるでしょう。(写真右)抗菌性も認められます。
乳酸菌が繁殖しやすい竹粉 竹炭の断面SEM像(JEOL)
(4)大気を救う
大気中の二酸化炭素ガス(CO2)やメタンガス(CH4)が大気を保温して地球温暖化が進行していると考えられています。これが正しいとすると地球温暖化を防止するにはこれらのガスの大気中への放散を防止することが有効な手段になります。
人類は化石燃料を使うようになって以来、地中に眠っていた炭素(C)を大気中にCO2として放出するようになりました。(図1)木材を燃料や建築材料に使っておれば木が大気中から取り込んだCO2を再び大気中に戻す、いわゆるゼロエミッションで済むのです。
温室効果ガスの割合(環境省HPより)
ところが竹炭はさらに都合の良いことにCを大気中に戻さないのです。(写真7)竹炭を土壌改良材として土壌に配合すると、それは数千年の間破壊しないと言われています。つまり、半永久的に空中のCO2を地中に固定することができます。空中のCO2を地中に固定する方法は他にもありますが、それらはそれ相応の効果があるだけで、竹炭のように沢山の効果を並行して発揮できるものはありません。
竹炭製造によるカーボンマイナスのメカニズム
①CO2吸収 ②CO2放出 ③CO2固定 ④土中固定
(A)燃焼完了:①-②=0(ゼロカーボン)
(B)竹炭焼き:①-②=③(マイナスカーボン)
CH4が大気中に含まれる量はCO2よりは少ないのですが、温暖化に寄与する度合いは数十倍も高いとされています。発生源は湖沼などがあり、天然ガスとして利用されていますが、人類や動物も発生させています。人間のゲップや放屁ガスの中にCH4が多く含まれていますが、それだけでなく、家畜のうちの反芻動物が反芻する際にCH4を放出します。家畜の数は人口に匹敵するほど多くいますが、反芻動物は牛、ヤギ、ヒツジなど家畜の半数以上がこれに該当します。竹粉や竹炭の整腸作用でCH4の発生を減らすことができれば、かなり有効な手段となるはずです。
(5)湖沼を救う
私たちは活性炭が水や空気を浄化する効果があることを知っています。竹炭は活性炭に次いで浄化作用が高いのです。その効果は表面積に比例します。活性炭は微粉であり、比表面積が大きいのです。これに対して竹炭はその中に微細な空洞を有することから、内部表面積が高いのです。
したがって、竹炭を大量に湖沼などに投入すれば、手賀沼などの魚の住めない湖沼の水質が浄化されることが期待できます。もちろん、現在取り組まれているように、湖沼への生活排水などの排出規制が必須ですが、今から流入する分をゼロにしても、すでに溜まっている栄養分を取り除く必要があります。それには竹炭が有効なのです。
(6)家屋を救う
竹炭は水を浄化しますが空気も浄化します。すでに消臭剤として炭が使われていますが、活性炭に次いで竹炭が高い性能を発揮します。最近の住宅が化学物質によって汚染されていることはシックホームとしてしばしば問題にされていることから判ります。住人の健康を損なわないようにするには、家の中の空気を清浄に保つ必要があります。竹炭を建材とみなして壁や天井の内部に配置すればその効果が期待できます。
また、竹炭を床の内部や床の下に使用すれば湿度の調節が期待され、冬場の乾燥を夏場に持ち越すことも可能でしょう。建材は木質であれ鋼などの金属であれ、水分に弱いものですから、乾燥は家屋にとって非常に大切なことです。
3.竹林整備は世界をも救う
(1)竹の繁殖地
竹は日本でも比較的暖かい地域に繁殖していますが、世界的に見ても赤道に近い次の三つの温暖多湿地帯に繁茂しています。
①東南アジア(日本や中国を含む)
②アフリカ中部(コンゴなど)
日本における竹林面積十傑 世界の竹林分布(ネット資料)
日本は幸か不幸か竹の生息地の北限です。竹が繁茂することは森林保護にはマイナスですが、竹を資源と捉えるならば大きいプラスになります。竹のプラスの面を大いに活用して、生活に役立て、ひいては地球環境保持に役立たせたいものです。
(2)地球温暖化防止
地球温暖化防止に積極的に取り組んでいる国があります。南半球のニュージーランドです。その国では家畜として多量に飼っている羊に対して、税金を課しているそうです。1匹に対していくらというように人頭税ならぬ羊頭税を国が取っているのです。ニュージーランドでは人口よりも羊の頭数の方が多いでしょう。牛を沢山飼っている国はどこでしょうか?牛肉を食べないインドと牛肉を沢山食べる米国などです。
化石燃料からのCO2排出規制だけでなく、今後は家畜(反芻動物)からのCH4排出規制も考慮した取り組みが必要だと思います。
4.竹炭の作り方
では、そんなに有用な竹炭をどのように製造すれば良いのでしょうか?それを以下に述べて行きたいと思います。
(1)従来の竹炭製造方法
これは大別して次の二つがあります。
①野焼き法
この方法は竹を伐採して集め、地面で燃やす方法です。延焼を防ぐために地面を少し掘り下げてから燃やす方法もあります。簡便ですが竹炭の収量が低く、品質もあまり良くありません。その原因は竹を燃やしている間に灰になってしまうからです。
野焼きの方法 ㈱モキ製作所製「無煙炭化器」
②窯焼き法(写真10)
これに対して窯焼き法は空気の供給をかなり遮断しますので、灰化が非常に少なくなり、収量が多く、品質も高いものが得られます。ただ、何といっても蒸し焼きのような状態ですので長時間が必要です。製造コストが高いのが最大の難点です。
一方、良い点は竹酢液という汁が取れ、それが虫よけなどの害虫忌避剤として活用できることです。
(2)最近の竹炭製造方法
上述の事情を改良した炭化器が開発されています。
一つは林業試験場が開発した「林試1200型、1800型」と呼ばれるものです。(写真11)
もう一つは㈱モキ製作所が最近開発した「無煙炭化器」と言うものです。(写真9)
これらは野焼き法よりは収率が高いのですが、残念なことに、この方式で大型の炭化器を製造すると竹林現場に持ち込むことができません。炭化器の搬送が難しくなるのです。
(3)開発した大型可搬式竹炭製造器
そこで私共認定NPO法人蔵前バイオマスエネルギー技術サポートネットワーク(略称K-BETS)とNPO法人竹もりの里は共同して大型の可搬式炭化器を開発しました。大型炭化器は竹の集材の仕組みがあれば一カ所に大型のものを設置すれば良いのですが、竹はパイプと同様に空気を運ぶようなもので、運送効率が悪い典型です。
ドラム缶を活用した簡易型炭化炉 林試1200型炭化炉
そのため私たちは竹林のある現地で竹炭を作り、竹を運ぶのではなく、その製品である竹炭を運搬することにしました。当然、炭化器自体も可搬式でなければなりません。
こうして、可搬式で大型の炭化器を開発したのです。可搬式である以上、軽くなければなりません。軽量化の工夫をもちろんしております。(実用新案特許申請中)
5.まとめ
(1)繁殖力の旺盛な竹林が森林を侵食しており、森林資源が損なわれていると同時に、生物の多様性が失われてきている。
(2)この原因は竹の使用範囲が他の材料によって代替されてしまっていることにある。
(3)したがって竹の大量の利活用方法があれば、竹林が放置されることはなくなる。
(4)竹をもっとも大量に消費できる分野は土壌改良材としての竹炭であると判断したので、竹炭を安価に製造する方法を開発する必要がある。
(5)その方法は私共が開発した可搬式大型炭化器である。
(6)竹炭は土壌改良材以外に大気中のCO2の固定にも直接的な効果があり、地球温暖化防止策にもなる。
(7)竹炭はそのほか家畜や湖沼、家屋などひいては人類もすくうことになる。
(8)資源が少ないと言われる日本であるが、竹を資源と見なすことにより、環境保全や農業の発展に大きく寄与するシステムを構築できることになり、雇用も創出できるので、地方創生が達成され、ひいては日本を救うことになる。
(9)竹炭を効率よく製造することのできる可搬式大型炭化器は、それを必要とする国々への輸出産業の一翼を担う可能性があり、地球規模の温暖化防止策の一つとしても今後注目されるであろう。
<付録>理解を助けるために
(注1)肥料・土壌改良材・土壌改良剤の簡便な区別方法
①肥 料:植物の栄養を供給することを主とする資材(窒素、リン酸、カリなど)
②改良材:土壌に化学的変化をもたらすことを主とする資材(石灰など)
③改良剤:土壌に化学的変化以外の変化をもたらすことを主とする、いわゆる団粒構造等の物理的変化をもたらす資材。従って竹炭は土壌改良剤である。
(注2)土壌改良
①土は三相:土の粒子(固相)、水分(液相)、空隙(気相)から構成される。
②土の団粒構造:粘土や砂などの粒子、有機物由来の腐植などが集まって固まったものを団粒と呼び、この団粒によって構成される土壌は適度な空隙が存在し、排水性および保水性に優れ、やわらかい土となる(団粒構造)。これに対して団粒化が進んでおらず、粒子がバラバラの状態(単粒構造)では土が容易に目詰まりを起こし、水はけが悪くなるとともに、土が硬くなることから作物の栽培に不都合を生じる。
③土壌微生物:豊富な有機物を含み、適切に管理された土壌中には様々な種類の微生物が生存し、お互いに影響を及ぼしあいながらバランスを保っている。この微生物バランスが崩れ、作物に害を与える細菌などの微生物が著しく増加すると、連作障害などの土壌病害を起こす。
④土壌改良の方法:竹炭投入は次の項目をすべて満足する。
(a)排水性の改善:粘土質の土壌に砂を投入など
(b)保水性の改善:砂質土に粘質土やピートモスなどの投入
(c)団粒化の促進:土の団粒化は微生物の働きによって生成された物質により粒子がまとまることにより進行する。このため有機物を適切に投入し、水分を微生物の活動が活発になるよう保持することで団粒化が促進される。一方で微生物によらずに土壌を団粒化する目的で高分子系土壌改良材が用いられることもある。
(注3)土壌改良材の種類
(a)有機質系:動植物の遺体が主成分
・バーク堆肥 ・腐葉土 ・家畜糞尿 ・泥炭 ・木炭(竹炭) ・もみがら
(b)無機質系:鉱物を粉末に又は高温処理し多孔質にしたもの等
・パーライト ・バーミキュライト ・ゼオライト(粘土鉱物) ・ベントナイト ・けいそう土焼成粒
(c)高分子系:分子数の多い化学物質が主成分
・ポリエチレンイミン系 ・ポリビニルアルコール
<以上>