スラウ市のゼロカーボンハウスミニ団地訪問 2014/10/21荒川英敏

  ロンドンだより その45

ロンドンは秋も深まり色付いていた公園の木々や街路樹も葉を落とし始めおり、これから自治体の落ち葉回収部隊が忙しくなりそうです。

さて先日、ロンドンの西の郊外にあるスラウ市に201011月にゼロカーボンハブ(国のゼロカーボンプロジェクトの元締め)と大手電力会社SSEが共同開発したゼロカーボンハウスミニ団地を訪問しました。

このゼロカーボンハウスはグリーンワット・ウエイと呼ばれ、住宅が10戸で、入居者は公募され、2年間の賃貸で、入居者には居住期間中の18ヶ月間は様々なデータをコンピューターで24時間に亘って自動的に収集することと、職員による住宅や設備機器の定期的な点検や訪問インタビューが行われること等を条件に、2年間の試験入居を201211月に完了しています。試験入居の完了と同時に、このゼロカーボンハウス団地は地元のデベロッパーに引継がれ、入居者は引続き賃貸契約また購入によって居住しています。その後、2年間のデータ取りの結果がゼロカーボンハブから公表されています。

ゼロカーボンハウスの概要

・木造パネル構造(戸建とアパート)、従来型レンガ+木造フレーム構造(6戸)

・高断熱
・高気密構造 

・開口部:窓 – PVCフレーム三重窓、断熱ドア

・熱交換型24時間換気システム:夏季バイパス機能付

・地域暖房給湯:主熱源:木質チップバイオマスボイラー
補助熱源:地熱回収型ヒートポンプ、太陽熱温水器

・太陽光発電搭載

・スマートメーター

・グレイウオーター再利用:シャワー風呂の排水をタンクに貯留、回収した熱を換気システムの吸入空気の加熱に再利用、熱回収済の水はトイレ水として再利用

・節水:節水シャワーヘッド、節水水栓、節水トイレ

・雨水貯留タンク:ガーデニング、トイレ水

・電気自動車充電装置:電気自動車シェリング(1台)

ゼロカーボンハウス基準の住宅部位の性能
・屋根熱貫流率     0.10 w/k
・外壁熱貫流率      0.11 w/k
・床          0.10 w/k
・窓          0.80 w/k
・ドア         0.88 w/k
・換気熱交換率     92%
・熱損失係数      0.60.8w/k
注1)熱貫流率とは外気に接する部材1㎡当りの外気と室温の温度差によって生じる部材の熱貫流量で数値が小さい程良いとされる。
2)熱損失係数とは住宅全体の熱損失量を延べ床面積で徐した数値で、小さい程良いとされてる。

ゼロカーボンハウス10戸のCO2削減量

住居 住居    延床面積  熱損失係数 CO2排出量 ZCH基準との差

番号    タイプ     (㎡)   (W/k)      (kgCO2/㎡)     (kgCO2/㎡)

 1戸建3寝室  93.84   0.78    25.26        -25.17

 2テラス2寝室  80.26   0.69       24.05          -23.34

 3テラス2寝室  80.26   0.61    21.59    -19.74

 4テラス2寝室     80.26   0.70    24.05          -19.91

 5アパート1 B  45.01     0.74          29.08              -58.91

 6アパート1B   45.01     0.80         32.32           -58.89

 7  テラス2B    93.84   0.68     22.95     -23.31

 8テラス3 B     93.84    0.60   20.71     -23.34

 9テラス3B   93.84   0.68    22.95      -25.10

10戸建3寝室  93.84   0.78     25.23     -25.18

      注3)テラスとは長屋

18ヶ月間に亘って10戸すべての住宅で連続記録された項目は、温度、湿度、電力消費、暖房温水消費量、給湯消費量で、更に定期的に室内空気質と気密性能の測定され、居住者の住み心地の評価もインタビューで収集されている。

私は完成時から4年近く居住している住宅番号5番(一人住まい)と8番(夫婦に子供一人)を訪問し、現在の住み心地の感想を以下の様に聞くことができました。

5番の住人:とても満足している。真冬でも暖かく、暖房費が安くて助かっている。室内の空気が新鮮な感じで心地良い。試験居住のときは職員が定期的に来て、換気システムのフィルターの掃除をしてくれたたが、今は自分でやらねばならないので少し面倒だ。

7番の住人:前に住んでいた古い住宅と比べ快適さがまったく違います。特にいつも新鮮な空気を吸っている様で、この前も数人でパーテイをしたが、全員が空気が気持ち良いと言っていた。料理の臭いも部屋に残らず、信じられない。ランニングコストも前よりずっと安くなったの、で助かっている。

今回のゼロカーボンハウスミニ団地への訪問によって、イギリスは2016年から世界に先駆けて新築住宅はすべてゼロカーボンハウス仕様で建てること、また2019年からは、新築の公共施設、病院、学校、商業施設、事務所ビル等はすべてゼロカーボン仕様となることが義務付けられており、国を挙げて2050年までのCO2削減目標の-80%を、着々と進捗させている様子と、ゼロカーボンハウスがひたすらに性能とCO2削減を追うだけでなく、居住者の快適な住み心地との両立を達成している様子を、垣間見ることができました。(了)
zch01.jpgzch02.jpg

 

左から戸建と長屋風3軒(真中の8番を訪問した)10番の延床面積94㎡の3寝室の戸建住宅

zch03.jpg

バイオマスボイラー、地熱型ヒートポンプ、屋根に太陽熱温水器を備えた地域暖房・給湯のボイラー棟

カテゴリー: 技術者の現場レポート パーマリンク