ロンドン便り その34
英国の低炭素化の長期目標は2050年までに、CO2排出量の80%削減(1990年比)です。
一方、英国の一次エネルギー供給構成(グラフ1)は石炭、石油、ガスが86%を占めており、発電電力量構成(グラフ2)でも見ても71%が化石燃料で占められている状況であります。
(グラフ1) (グラフ2)
一次エネルギー供給構成(2011年) 発電電力量構成(2011年)
出所:IEA Energy Balances of OECD countries 2012
この様な状況の中、2020年までに発電電力量の15%以上を再生可能エネルギーで賄う事を目標にしています。
その為に、特に、以下の施策を強力に推進しています。
・洋上風力発電の推進
・火力発電所のバイオマス化の推進
・火力発電所のCCS(CO2回収・貯留装置)の設置(30万Kw以上の発電所で回収率90%)
需要側としては、2050年に全住宅のゼロカーボン化を長期目標としています。その背景には、部門別のエネルギー需要構成(グラフ3)では民生が45%占めており(内訳は住宅が32%、商業・教育・医療福祉施設等が13% )、その内、住宅の給湯・暖房の熱源は化石燃料が圧倒的に多く、全エネルギー需要の26%にもなります。
この給湯・暖房の熱源を再生可能エネルギーに転換させることは重要なことであります。
出所:IEA Energy Balances of OECD countries 2012
その為に、以下の施策を順次実施して来ています。
・2007年:住宅売買時の省エネ性能表示の義務化
・2010年:賃貸住宅の省エネ性能表示の義務化
・2011年:住宅を除く、民生部門の給湯・暖房需要に対して再生可能エネルギーで生成された「熱」に対して、
再生可能熱インセンテイブ制度(RHI-Renewable HeatIncentive)
が 導入され、着実に実績を上げて来ています
・2014年4月から*住宅向けRHI制度の導入
・2016年:新築住宅のゼロカーボン仕様の義務化がスタート
・2030年までに、全住宅の1/3に相当する800万戸の給湯・暖房エネルギーの再生可能エネルギーへの転換を目標
・2050年までに全2,300万戸の給湯・暖房エネルギーの再生可能エネルギーへの転換は、目標の全住宅のゼロカーボン化への、重要な鍵となります。
英国の住宅の約60%が築後50年以上経っています。これら古い住宅に対しても、省エネ性能表示を義務化することは、断熱性能の向上〜設備の更新〜省エネ性能の向上〜CO2削減〜RHI制度の導入〜再生可能エネルギーへの転換と、国が行う一連の温暖化対策の必要性を具体的に国民に啓蒙する、効果の高い施策ではないかと思えてなりません。
本年4月から導入された住宅向けRHI制度が加わり、英国のエネルギー需要の45%を占める民生部門向けがRHI制度の対象になったことで、再生可能熱エネルギーへのシフトが加速するのではないかと思われます。最新のRHIインセンテイブは以下の表の通りです。
この他に、生成された「熱」エネルギーを読み取るHeat Metre(熱量計)の取付け、データーの読取、メンテナンス等の費用として、£200/年(32,000円)が向こう7年間にわたって支給されます。本年4月から導入された住宅向けRHIの進捗状況と、今後の
英国政府のRHI関連の動きに注目して行きたいと思っています。
最後に、ヨーロッパ主要国の再生可能熱エネルギー政策の状況です。
・スペイン: 2006年から新築・増改築時の太陽熱温水器設置の義務化
・イタリア: 2012年から新築・増改築時に温水の50%、暖房の20%の再生可能熱利用の義務化
・オーストラリア: 2012年に再生可能熱利用の補助金の為、1億ユーロの基金が設立された
・デンマーク: 2013年から新築時のガス・石油・石炭利用の給湯・暖房設備の設置の禁止
以上、ご参考までに。(了)