この様な中、昨日、英国南西部のケント州にある、ホークス建築設計事務所で、ZCHの設計者で ある リチャード・ホークス氏に、お会いすることが出来ました。彼が設計した英国初のZCH は2010年2月に完成、以来3年以上を経過しました。しかし、とかく技術屋はエネルギーの消費量等の数字に、興味を持ち気味ですが、ホークス氏は自ら設計したZCH に家族(子供二人)と居住され、家族からの立場での,「住み心地」の検証も続けています。
最初に、設計事務所で概略の説明を受け、その後、実際に彼の住居でもありますZCHを見学して来ました。今回で4度目の訪問となりましたが、その都度、少しずつではありますが、変化している様子を見聞することができました。
昨年夏の訪問時と今回の違いは;-
1)敷地を買い増して、約倍の広さの2エーカー(約2400坪又は約8000㎡)になっており、池や盛り土で庭のランドスケープが、大きく変わり、細かい造園作業が続行中でした。
北側の敷地内の造られた池とZCHホークス邸の佇まい
2)豚が4頭飼育されていました。(いろんなパーテイの時に、食される由)
3)既存のPV-T(太陽光発電+熱回収型給湯システム)を、間もなく新型のPV-Tに交換する由。
4)庭の南端に、太陽光発電パネル(4.2kw)が追加設置され、既存の分と合せて8kwとなっていました。
敷地の南端に追加設置されたPVと建築家 ホークス氏
5)太陽光発電パネルを増やした理由は、英国では2014年4月から、住宅向けのRHI制度*(Renewable Heat Incenntive再生可能エネルギーで生成された「熱」を使って、給湯と暖房に使った場合に限り、国からインセンテイブが支払われる)制度がスタートします。
この制度を活用して、太陽光発電の日中の余剰電力をグリッドに流さず迂回させて電気温水器のヒーターを加熱し、お湯を得ます。これを給湯と暖房に使用し、冬季の不足分は、補助のバイオマスボイラー(木質ペレット)でカバーし、「熱」全てを再生可能エネルギーで賄い、季節によって給湯・暖房の熱負荷がどの様に変化するか、検証を続けています。
*住宅向けRHI制度の概略は、先のロンドン便り その29 を参照ください。
英国では、既に太陽光発電の日中の余剰電力を自動的に迂回させ、電気温水器のヒーターを加熱するシステムの開発が進んでおり、写真はプロトタイプですがホークス邸ZCHで今年の4月から使用中で満足する結果が出ていると話していました。
英国製の太陽光発電電力の迂回システム(プロトタイプ)
一方、迂回システムの開発元の実用試験では太陽光発電パネルを備えた2軒の住宅で、迂回システムが有りと無しの場合で比較した様子を下記のグラフ①、②で表しており、2日間の発電量と使用量(迂回させた電力量)が見て取れます。
緑は太陽光発電の自家使用量 青は太陽光発電量赤はグリッドからの買電量
迂回システムが無い為、太陽光発電の余剰電力が十分にある様子が見て取れます。
グラフ② 迂回システムが有る場合(右の数字はWh)
迂回システムが有る為、太陽光発電の余剰電力が電気温水器のヒーターに通電された様子が見て取れます。特に2日目は余剰電力のほぼ100%を迂回させています。
英国では、一般住宅のエネルギー消費量の80%は給湯と暖房が占めている為、給湯と暖房に係わるエネルギーの再生可能エネルギーへのシフトは、大変重要な課題であります。ホークス氏の話では、国は住宅の「熱エネルギー」を化石燃料から再生可能エネルギーにシフトさせる為、太陽光発電の電力を迂回システムで電気温水器等で消費した場合も太陽熱温水器と同様にRHIを検討している、との事でした。
一方、グラフ④の如く日本は2012年から再生可能エネルギーのFITが始まり、増加傾向だが全発電エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合は僅か1.6%で、英国やドイツ(18%) との差がなぜ縮まらないのか?、再生可能エネルギーへのシフトは掛け声ばかりで施策が企業や国民を、その気にさせるに至っていないのか?
省エネ技術やアプリケーションで秀でているはずの日本だがどうなっているのか気がかりですね。
グラフ③ 英国の全発電エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合(水力を含む)
グラフ④日本の全発電エネルギに占める再生可能エネルギーの割合(水力を除く)
ホークス氏は現在はグリッドからグリーン電力(再生可能エネルギーだけで発電した電力)のみを一部購入しているが、近々にはグリッドからの電力に一切頼らず、再生可能エネルギーだけでエネルギーの完全自立型ZCHを目指、粛々と進捗させています。今後の若き建築家の活躍を期待しています。(了)