日本林業再生に取り組んでいる現在、世界中に目を広げると素晴らしい成果を成し遂げている例がある。
ギュッシングの例は過疎化に悩む山村にとって非常に参考になるものである。
1. ギュッシングの町とは
1990年代初めまではオーストリアで最も貧しい村であった。人口4000人で国の最東部に位置している。 隣は旧ソ連圏の東欧、鉄のカーテンだったので国の投資事業が無く産業不在だった。ほぼ7割の住民はウィーンなど都会地への出稼ぎ労働者になって週末に帰ってくる生活をしていた。
2. 何が暮らしを貧しくしていたか
食糧は自給できるが出費の大きいものは灯油、電気などエネルギー関連費用で約8億円相当あることが調査で分かった。これらの費用は産油国や外部の大企業に流出してしまうものであった。議会ではエネルギーの外部依存をやめて脱化石エネルギーの方針にし、資金の外部流失を食い止める決定をした。
3. エネルギーを地域で作り出す取り組み
地域で発生する再生可能エネルギーを自分たちで作り出していく取り組は町長がリーダーとなりカリスマエンジニャー「コッホ」さんとペアーになって推進した。
その哲学は「エネルギーは上下水道やごみと同じインフラの一つである」
4. 地域の発展計画の作成
(1)徹底した省エネ対策 :節電と建物の断熱強化策の実施
(2)再生可能エネルギー網の構築
林業や木材産業から出る木質バイオマスの活用
太陽光温水器と太陽光発電の普及
農業から出る緑肥、収穫残滓の利用
などを基本に進めることにした。
5. 主な実施内容
‘92年:木質バイオマスの地域暖房開始。4年後には熱供給配管の総延長35kmになっていた。 ’01年木質バイオマスコジェネ発電運転開始。固定価格買い取り制度を利用して売電した。この時点でエネルギー消費と同等のものが生産できるようになった。
6. 企業誘致活動を展開
地域で発生する木材の活用を狙って企業を誘致する作戦を始めた。 その謳い文句は「安い熱と安い土地を提供し、木屑や端材などのごみは燃料用に買い取ります」。 これに大手フローリング会社2社初め50社の企業がやってきた。 新たに1100人分の雇用が生まれた。工場群の近くに木材乾燥工場を作り、大手フローリング会社の工場とで大量の熱を使い始めた。
7. エネルギーの自活状態
家庭用と公共設備は100%自給しているが増えた産業部門では熱85%、電気50%程度である。 エネルギー管理の中心的役割はギュッシング・エネルギーセンター(責任者はコッホさん)が行っている。 木質バイオマスのガス化装置が稼働しているので熱、電気のみでなく人工のバイオガスや石油も作っている。 最先端の科学技術に取り組んでいるので世界中から科学者が研究にやってきたり見学者が見に来たりしている。
8. バイオマスの活用が中心
町の中心部は形がついたが農村部に点在する家庭には熱配管の設置は困難である。その対策で2015年を目標にバイオガスパイプラインを計画している。農村部のバイオマス発酵工場も3ケ所から更に2ケ所計画中である。 ここまで木材を使っても森林成長分の30%を利用しているに過ぎない。大量に捨てている残余物(草や剪定材など)の活用を工夫していく。
9. ギュッシング町の取組成果
町の税収が1992年に比べて2009年は44倍に増えた。企業がたくさんできたことで新しい雇用が1100人分も生まれ、過ごしやすい豊かなギッシング町に変わってきた。学校やスポーツ施設なども充実させることができた。
上記の具体的内容をデーターなどで解説:
「ギュッシング市 再生可能エネルギー利用の事例調査報告(guessing_sample.pdf)」にて具体的な設備事例など説明しています。
引用文献
熊崎実 「地域の自立はエネルギーの自立から」
熊崎実 国際森林年の集いin山梨」 講演録、2011.10.19
ギュッシング市の事例が記載されている資料
http://www.rinya.maff.go.jp/kanto/yamanasi/news/pdf/111025-2.pdf
熊崎実 森林・林業の再生に向けてー課題と展望
オーストリアでの熱供給の事例等
http://www.nissay-midori.jp/knowledge/pdf/H23_lecture_tokyo.pdf
滝川薫 他 『欧州のエネルギー自立地域』学芸出版社、2012.3.10
大友詔雄 「環境・地域・自然エネルギーの利活用と地域経済への波及効果」中小商工業研究』、中小商工業研究所、(109)2011,秋季
Christian Keglovits 「ギュッシングモデル」 http://www.mirai-energy.info/wp-content/uploads/01-Guessing-Presentation-Japanese.pdf