最新の家庭用給湯器についての考察 2011年12月13日 荒川英敏

「エネルギー白書2011年」によりますと、日本のエネルギー消費の14%は家庭で消費され、その内の30%は給湯に使われています。この状況から考えますと家庭の給湯エネルギーの削減は日本のCO2削減に大きく貢献することになります。
 そこで、日本市場における最新の給湯器市場の状況について考えてみたいと思います。

 給湯器の種類

私の記憶では、これまでお湯の需要に対しての熱源は、薪や木炭が主流でしたが、戦後、暫くして急速に普及がはじまった台所用品の一つに石油コンロがありました。私も子供の頃、近所の知り合いの家に石油コンロが入ったのを見て、点火や火力の調整が簡単に出来るには驚きをかくせませんでした。

一方、日本人の大好きなお風呂は、内湯がまだ富裕層だけのものでしたので、もっぱら銭湯通いが常識でした。この様な状況の中、台所のガス瞬間湯沸し器と浴室向けにガス式風呂釜が登場し、その後、台所と風呂の給湯需要を同時に賄う、ガス給湯器が登場し、その使い勝手の良さと便利さから給湯と風呂事情は一変、今日でもガス給湯器は日本の給湯器の主流であることは間違いありません。 その後の技術の進歩でガス給湯器には湯温、湯量はもとより異常使用、ガス漏れ検知や地震揺れ検知と遮断等々のハイテク技術は当たり前になっています。この様な中、京都議定書の発効を受け、1998年の省エネ法の改正でトップランナー基準が導入され、ガス給湯器がトップランナー対象機器となったのです。この為、リンナイやパロマを初めとする大手ガス機器メーカーによって、更に省エネ技術を高めた高効率ガス給湯器が開発され、国によって「エコジョーズ」と命名されたのです。一方、電気給湯器は200V配線の進捗と深夜電力制度の発足が相まって、貯湯タンクを置くスペースがあり、かつ都市ガスが普及していない地方からの普及が始まりました。
 90年代になり、地球温暖化現象が過大なCO2排出が根本原因であることが科学的に解明されてから、CO2排出削減は国の命題となり、官民を上げての省エネやCO2削減技術の開発が多く行われ、その一つが、世界で初めて温室効果ガスであるCO2ガスを冷媒とした次世代ヒートポンプ型電気給湯器「エコキュート」が開発され、今では電気給湯器の主流となり、その普及の拡大が期待されています。最近では、エコキュート+ガス給湯器、エコキュート+太陽熱温水器、ガス給湯器+太陽熱温水器のハイブリッド型が次々に登場し、さらに、ガス会社が音頭を取って開発された、発電・給湯・暖房を一台で賄う、家庭用燃料電池「エネファーム」やガスエンジンを使った発電・給湯・暖房システムの「エコウイル」を加えると、消費者の選択肢は急速に広がっています。さて、この様な現状の中、消費者にとって、どの給湯システムが“Best Value for Money”(最善のシステム)か、探って見たいと思います。

1.高効率ガス給湯器「エコジョーズ」

「エコジョーズ」とは、これまでのガス給湯器で約200℃の熱を含み捨てられていた排気ガスから、熱を回収するため熱交換器をもう一つ追加し二次熱交換器として、15%の熱回収を行い、総合熱効率を従来型ガス給湯器の80%から95%まで高めた優れものであります。国はこのタイプを「潜熱回収型給湯器」称し、更に呼び易く「エコジョーズ」と命名し補助金を付けて、普及を促進しています。 「エコジョーズ」の特徴として;
     総合熱効率95%を達成。
     CO2も更に約12%削減。
     ガス代も年間約12,000円削減。
     給湯器の中で最も小型で、据付場所の制約も少ない。 

でありますが、一方ネガテイブ要素として
       旧型から新型へ交換した場合の投資回収年数が30年を超える。
       災害時にガスの供給が可能でも、電気が止まれば使用不可となる。
 しかし、“瞬間湯沸し機能”は他の給湯器には無く、日本の給湯器の代名詞なので根強く需要は続くと思われます。

2.電気温水器「エコキュート」

これまで、電気給湯器(電気ヒーター式)はガス給湯器のライバルとして、戸建住宅でのオール電化の必須機器として電力会社のバックアップを受けながら、深夜電力負荷を増やす切り札とし普及が進んで来ました。 その後、技術革新で温室効果ガスのCO2を冷媒としたヒートポンプ技術で「ヒートポンプ型高効率給湯器」の開発が行われ、初期の目標であるCOP(成績係数)3を達成、国はこれを「エコキュート」命名し、補助金を付けて、一層の普及促進を図っています。 この「エコキュート」の特徴は;-
     今ではCOP(成績係数)4に迫る極めて高い熱効率である。
     CO2削減は従来型ガス給湯器に比べて約-50%である。
     深夜電力使用なので、深夜電力負荷の増大に貢献している。
     給湯だけではなく暖房機能を持った機種もあり多機能化してきている。
     災害時に電気の復旧は、ガスより極めて早いことと、貯湯タンクを持っているので300ℓ~500ℓの水が飲用を含む非常用水としての使用が可能である。 

一方、ネガテイブ要素として;
       大きな貯湯タンクの設置が必要なため、据付場所が限定される。
       深夜の運転が基本なので、コンプレッサー音等が近隣住民からの苦情になりかねない。
       本体価格+据付工事費をいれると100万円近くになり自治体からの補助金があるとは言え高額である。 しかしながら、更なる技術開発により一層の静音化と、電源を太陽光発電や風力発電での電力で賄うようになれば、大幅なCO2削減と光熱費削減が期待されます。

 3.太陽熱利用給湯器「ソーラシステム」

もともと構造が簡単だったこともあり、70年から80年代の一時期、地方の戸建住宅での太陽熱温水器の普及の兆しがあったが、地方の小規模業者の強引な訪問販売によって太陽熱温水器の評判が下落し、ほぼ消滅状態でありました。 しかし、昨今の地球温暖化防止のあらゆるハイテク機器の開発の嵐の中で、地味ではありますが、矢崎総業や長府製作所などによって「ソーラーシステム」が開発されました。 

これは、これまでの太陽熱温水器のイメージを一新した斬新なデザインと集熱器と貯湯タンクを分離するアイデイアは、無尽蔵の太陽熱エネルギーを有効活用するCO2排出ゼロの優れたシステムである事が再認識され、その普及に期待が高まっています。
注)太陽熱利用機器は従来の集熱器と貯湯タンクが一体となった太陽熱温水器と、集熱器と貯湯タンクが分離したソーラーシステムの2種類があります。 その仕組みは、屋根に設置する集熱器と地上の貯湯タンクの間を不凍液(熱媒)を充填したパイプで接続し、この不凍液(熱媒)を循環ポンプで循環させ、貯湯タンクの水をタンク内の熱交換器で温めてお湯をつくるシステムです。これにより、これまで、太陽熱温水器の屋根に掛かる約300kgの荷重を50kg以下に軽減し、施工の簡素化、そしてガス給湯器を補助熱源として組合せることで、全自動での給湯が可能となっています。 この「ソーラーシステム」の特徴は;-
     年間約90%以上の熱需要を太陽熱でカバーできる。
     CO2の大幅な削減に貢献できる。
     光熱費も大幅な削減が可能である。
     設備投資が比較的安い。
     設備投資回収年数が10年前後で極めて短い。
     災害時に水道の被害がなく電気が復旧すれば、給湯は可能である。
     災害時に貯湯タンクの水を飲用を含む生活用水としての使用が可能である。
 ちなみに、矢崎総業の太陽熱利用機器の商品名“ソーラーシャワーあつ太郎”は熱媒の循環ポンプの電源に太陽電池を使っているので、従来型太陽熱温水器と同様に、災害時に水さえ来ていれば、給湯が可能となります。このアイデイアをソーラシステムに組み込めば、停電時でも給湯が出来る災害時最強の給湯器になるはずです。

 4.太陽熱利用エコキュート(ソーラーシステム+エコキュート)

太陽と空気の熱の二つの再生可能エネルギーを組み合わせた、高効率給湯器で年間給湯保温効率はエコキュートの3.2を上回る5.0に達しています。
 太陽熱利用エコキュートの特徴は;-
     CO2を従来型ガス給湯器と比較して約70%削減する。
     給湯費用も従来型ガス給湯器と比較して90%削減する。
     天候予測システムでヒートポンプの運転を効率良くコントロール(矢崎の機種)する。
     太陽熱パネルは不凍液の循環のみであるので軽量(約50kg)で屋根への荷重は小さい。
     風呂残り湯の熱も回収して、給湯エネルギーとして活用。
     災害時、貯湯タンクの水を飲用を含む生活用水として使用可能である。 

既に長府製作所と矢崎総業の2社が製品化しており、今後の普及が大いに期待されます。

 5.ハイブリッド給湯器(ガス+エコキュート、商品名「ECO ONE」)

エコキュートに高効率ガス給湯器「エコジョーズ」を組み合わせたもので、リンナイが「ECO ONE」の商品名で発売しています。
一次エネルギー効率は
107%とエコキュートの92%を上回っています。
 ECO ONE」の特徴は;-
     一次エネルギー効率が107%とこれまでの最高効率を達成。
     従来型ガス給湯器に比べCO242%削減。
     給湯費用を従来型ガス給湯器より50%削減。
     50ℓの貯湯タンクとエコジョーズを内蔵させた一体型でシステムの小型化を達成。
     エコキュートで45℃のお湯を沸かし貯湯タンク50ℓに貯え、キッチンや洗面、シャワー等の給湯需要に対応、風呂や暖房のお湯の大量需要には「エコジョーズ」で対応するハイブリッド給湯である。
     災害時、電気と水道の復旧で非常用給湯が可能であり、貯湯タンクの水を飲用として使用可能である。正に、ガスの最高効率給湯器「エコジョーズ」と、電気の最高効率給湯器「エコキュート」とのハイブリッド機器です。さすがガス機器メーカーらしく、エネルギー効率の高いガスの運転率を上げる設計で、少量給湯と大量給湯のバランスを取った、エネルギー効率107%の達成は見事であります。 

6.太陽熱利用ガス給湯器(ソーラーシステム+エコジョーズ)

太陽エネルギーの約50%を熱エネルギーに変換する非常に高いエネルギー効率のソーラーシステムと高効率ガス給湯器「エコジョーズ」を組み合わせたシステムであります。
日本では
長府製作所が「太陽熱利用ガス給湯器」、
矢崎総業が「エコソーラ1」、
パロマが「ソーラエコ」の商品名でそれぞれ発売しています。
 太陽熱利用ガス給湯器の特徴は;-
     一次エネルギー効率は製造元は未公表ですが、高効率ガス給湯器の「エコジョーズ」の95%に太陽熱エネルギーが加わるので、100%近いエネルギー効率であると予想される。
     CO2削減量も3社の平均では453kg-CO2/年である。
     給湯費用削減も3社の平均で45,800/年である。
     貯湯タンクも比較的小さく、3社の平均で約170ℓで、設置スペースも約1㎡である。
     太陽熱パネルは不凍液の循環のみであるので軽量(約50kg)で屋根への荷重は小さい。
     太陽熱給湯が不足すると自動的に「エコジョーズ」の補助給湯に切り替わる。
     災害時、貯湯タンクの水を飲用を含む生活用水として使用可能である。
     初期投資回収年数も三社平均で18年で、他の給湯システム比べても遜色がない。 現在、日本で最も普及しているガス給湯器と最も原始的で太古の昔からあったと思われる太陽熱利用による温水を作る方法との合体は、ガス給湯のCO2排出量をCO2排出ゼロの太陽熱温水で相殺し、複合で500kgCO2削減が可能で、今後の普及が期待されます。

 7.燃料電池「エネファーム」

燃料電池を利用し、発電、給湯、暖房エネルギーを賄うシステムです。仕組みは都市ガスから水素を取り出し、空気中の酸素と反応させ発電します。この発電時に発生する熱で60℃のお湯を作り、貯湯タンクに貯えます。湯切れ対策の補助熱源に「エコジョーズ」を内蔵させています。国はこのシステムを「エネファーム」と命名し補助金を付けて、普及の拡大を図っています。

 現在、東京ガスとENEOSJXエネルギー)の2社から発売されています。
「エネファーム」の特徴として;-
     電気を火力発電、給湯を従来型ガス給湯器の場合と比べCO21,500kg-CO2削減し削減率は-48%となる。
② 発電電力は0.75kWである。
③ 発電量は平均家庭の電力需要の60%をカバーする。
④ 年間光熱費は約50,000円から60,000円削減する。
⑤ 一台で発電、給湯、暖房を賄う。
⑦ 災害時、貯湯タンクの水を飲用を含む生活用水として使用可能である。一方でネガテイブポイントとして;-
       災害時、電気、ガス、水道のどれかが途絶えると全てが停止する。
       2年から4年ごとの定期的なメンテナンスが必要で、最初の10年間は無料のメーカー点検サービスが付いている。
       水素と酸素の化学反応そのものは無音に近いが、化学反応部に空気を送り込む、送風音が大きく、近隣住民からの苦情の原因になりかねない為、据付場所が制約される。
     初期投資回収年数が50年近くになり、投資効率が極めて悪い。
 今年10月中旬よりよりモニター販売が開始されたENEOSブランド(JXエネルギー)の「SOFC型エネファーム」は、従来型より40%も小型化した世界最小サイズで世界最高の発電効率45%で最大.70kWの出力です。そして、高効率ガス給湯器「エコジョーズ」をバックアップ熱源とし、エネルギー効率87%、CO2排出量を40%削減し従来型より大幅に性能が向上させています。 

しかし、初期投資回収年数が50年近くと悪いが、東京ガスもJXエネルギーも太陽光発電と組み合わせた「ダブル発電」+蓄電池と補助金で、初期投資回収年数を10年代を目指しています。又、JXエネルギーは大手住宅メーカーの積水ハウスと組んで、ENEOSエネファームと太陽光発電+蓄電池の組み合せで電力自給率の向上を訴求しています。 開発当初、価格が1,000万円以上した家庭用燃料電池を270万円まで下げた日本の物造りの技術は流石であり、「エコキュート」と共に、世界で日本でしか製造できない事実は誇れる事であります。

 8.ガスエンジン(エコウイル)

これは都市ガスを燃料とするガスエンジンでのコーゼネレーションで、発電と給湯・暖房を一台で行うシステムです。
 「エコウイル」の特徴は;-
     一台で発電・給湯・暖房を賄う。
     発電出力は「エネファーム」より25%多い1kWだが、発電量の調節が出来ないので、使用電力が1kw以下の場合、発電で余った電気は貯湯タンクの補助ヒーター加熱用として消費される
     貯湯タンクが設定温度で一杯の場合は発電が停止され、それ以降は電力会社からの電気を使わざるを得ない。
     貯湯タンク90ℓに75℃のお湯を貯湯。
     湯切れを察知し、補助熱源のガス給湯器で補完する。
     光熱費の削減は約30,000/年で、初期投資回収年数は約28年でエネファームの約半分である。
⑦ 災害時、貯湯タンクの水を飲用を含む生活用水として使用可能である。 

一方、ネガテイブポイントは;-
       3年毎に定期点検(有料)が必要。
       ガスエンジンはホンダ製の静粛エンジンであるが、騒音レベルは48dBと高く、近隣住民からの苦情を受ける可能性があるので、据付場所が限定される。
       災害時、電気、ガス、水道のどれかが途絶えると全てが停止する。
「エコウイル」は「エネファーム」より数年早く販売されそれなりの実績をもっているが、経産省と東京ガスの話から、国は「エネファーム」に力を注ぐようで、国からの補助金は平成22年度で打ち切られています。以上、8種類の給湯システムについて考察したが、一次エネルギー効率、CO2削減率、年間光熱費削減額、本体価格、初期投資回収年数、騒音、災害に対する強さの7項目をポイントで得点した結果、次の給湯機器総合ランキングとなっています。               給湯機器総合ランキング
順位 
得点  給湯システム名         商品名      メーカー/発売元
1位  32   太陽熱ソーラーシステム   ソーラーシステム  矢崎総業
2位  27   太陽熱+エコキュート    エコキュートソーラヒート 矢崎総業
3位  25   ガス+エコキュート     ECO ONE      リンナイ
同   25   エコキュート        エコキュート        ダイキン
同   25   エコキュート        エコキュート        パナソニック
4位  23   太陽熱+エコキュート    太陽熱利用エコキュート   長府製作所
5位  19   太陽熱+ガス給湯      エコソーラ1      矢崎総業
6位  18   太陽熱+ガス給湯      太陽熱利用ガス給湯器  長府製作所
同   18   太陽熱+ガス給湯      ソーラエコ       パロマ
7位 14    高効率ガス給湯器     エコジョーズ      パロマ
8位  14   高効率ガス給湯器      エコジョーズ      リンナイ
9位  13   燃料電池          エネファーム      ENEOS
10位  12   燃料電池          エネファーム      東京ガス
11位  11   ガスエンジンコーゼネ    エコウイル       東京ガス
番外  ―   電気給湯器          ダイヤホット      三菱電機  尚、総合ランキングの詳細は別表1、項目別ランキングは別表2、仕様は別表3をご参照下さい。

カテゴリー: 技術者の現場レポート パーマリンク