バイオアルコール生産時の炭酸ガス発生を考える

 バイオアルコールは源が炭酸ガスであるから、生産・使用しても炭酸ガスは増えないと考えられ、出来るだけ有効利用しようとする政府の方針が出されている。現在の生産量30KLを2011年には糖質(サトウキビ糖蜜等)、澱粉質(くず米等)から5万KL,2030年にはセルローズ系、資源作物系から600万KLという目標を設定している。ちなみに米国では2020年までに1憶4000万KLである。内訳はトウモロコシから4割、次世代バイオ原料から6割としている。本当に原料が間に合うのか、技術は大丈夫か、官民学(NPOを含めて)の合意が得られるか、体制が取れるかなど気になるところである。 バイオは炭酸ガス(カーボンとして)をいくら固定し、いくら大気に戻しているか推計してみたい。バイオアルコールを活用するときの重要な判断基準になるからである。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1994年報告による(注1)と大気中の炭酸ガスが光合成によって固定される量は年間614億トン(カーボンとして)である。しかしながら固定されたバイオはシロアリや微生物によって分解されたり、そのバイオを源とする土壌微生物の呼吸によって炭酸ガスとなって大気に戻される。その量は600億トンである。したがってその差、すなわち14億トンだけが安定的にカーボンとして固定または化石化される量で、2.3%に相当する。

 それではバイオアルコールを製造する時、固定された炭酸ガスはどうなってゆくのだろうか。その一部は発酵の際に炭酸ガスに変化し、一部はアルコールに変わり、自動車運転に使用される時に炭酸ガスに変わる。そして残渣となるバイオは畑に置かれ微生物に分解され、あるいは廃液処理されて炭酸ガスになる。安定的に固定されて残る2.3%以外は皆炭酸ガスになると推定される。結局バイオアルコールはを製造する場合でも、そのアルコールを自動車燃料として使用する限りでは97.7%は炭酸ガスになり、バイオをバイオとして放置するときと同じ様に、97.7%は炭酸ガスになると推定されるのである。つまりアルコール生産上バイオのカーボンを特別の安定化処理させることがなければ、循環して大気に戻るのである。その過程でアルコールを利用して人間のための仕事をし、炭酸ガスに戻す。それがバイオアルコールの定めであり、バイオアルコールを使用した際のバイオからの炭酸ガスの増加は無い。

 しかしバイオアルコールを生産のためには化石燃料が必要であり、化石燃料燃焼では炭酸ガスが発生し、炭酸ガスが増分となり、それが重大問題と考える。バイオアルコールは、エンジニアリング会社や、酒造会社、石油会社などが研究開発に取り組んでいるが、これらの会社では、生産したアルコールのエネルギーと、使用した化石エネルギーを差し引きしたエネルギーを成果としているケースが多いが、化石エネルギーが炭酸ガス増加になっていないことが明快になるまで成果とは言えない。企業は儲かるがそれでは温暖化を止めることは出来ない。成果と言える場合はガソリンと比較して炭酸ガスが減るケースである。もしバイオアルコールがなければ皆どうするだろか。石油掘削会社から購入し、海上輸送した石油を蒸留して出来たガソリンを使用して車を運転するであろう。バイオアルコールと同じ仕事をするガソリンから発生した炭酸ガス(ガソリン運転、製造時含む)と、バイオアルコール製造時に使用した化石エネルギーから発生した炭酸ガスとの比較がバイオアルコール有効性の決め手になるのではないか。その比較は研究開発者や企業経営者がコストや生産量の問題を検討する以上に「バイオアルコールの有効性の決め手」として検討すべきである。そしてバイオアルコールは炭酸ガスを削減するために活用するという原点に戻るべきであると思う。(廣谷 精記)

(注1)「バイオエタノール最前線」 横山伸也著 森北出版  

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