平成23年3月11日14時46分頃発生の東日本大地震から派生した「東京電力福島第一原子力発電所事故」は
ー:“どうすればよいの?”
ー:”何をすればよいの?”
ー:”我々のできることは?”
等々の多くを我々に語りかけています。
本稿では以下の4論点を軸にして、“バイオマスタウン創出”について提言します。
論点1:世界に大きな迷惑をかけている → どうやってお詫びすべきか?
論点2:技術立国日本のイメージを低下させた→ 取り返すための方法は?
論点3:広範囲の地域を放射能で汚染させた → 田畑の放棄や棄民は許されない!
論点4:エネルギー政策の見直しが求められている → バイオマスタウン創出の好機!
1)はじめに:論点の整理論点
1:世界に大きな迷惑をかけている
(1) 原子力発電所自体の危険性を今回事故が世界へ喧伝してしまったことが、各国の新原子力発電所の建設計画の見直しをもたらし、更に既設原発運転への不安を助長させている。このため、電力エネルギーを原発で賄うことによる“炭酸ガス削減”の世界潮流を
阻害してしまう可能性が大きい。また、放射能放散が国産農産物や海洋を汚染させているため、農水産物の世界市場の流れに長期にわたって悪影響をあたえることが懸念される。
(2)エネルギーで迷惑をかけたのだからエネルギーでお返しするため、世界的でも実例のない「広地域の大バイオマスタウン」を創出することにより、“炭酸ガス削減”の先見事例を作って、せめてものお詫びにしたい。
また、このバイオマスタウンを様々の分野で国際社会と連携して創出していきたい。
論点2:技術立国日本の評価イメージを低下させた
(1) ほとんど人災である今回の事故は、世界に対して日本人全体の恥である。この事故により、原子力発電所を海外に販売するビジネスチャンスの可能性をゼロにするとともに、原子力分野を専攻する学生や研究者が今後減ることが懸念される。
(2) 戦後の半世紀にわたって培ってきた“技術立国日本”のイメージを取り返すにはかなりの時間がかかる。従い、これからの日本を担う世代へ「失われた評価」を負の遺産として残さざるを得ない。また、原発を多く保有している国々から「今回事故は全くの人災」と批判されることになろうが、世界が我々を見る目に鋭い感度を持ちながら、情報公開を含めてそれらへ真摯な対応が必要である。
論点3:広範囲の地域を放射能で汚染させた
(1) 被災地域の主産業は米作を中心とした農業である。放射能による土壌汚染のため、食用の農業生産は今後10年程度の間厳しい環境に置かれるであろう。先祖代々守ってきた農作地の荒廃や放擲は、地域住民にとって耐えられないことであろう。
(2) 被災地域の雇用を長期継続的に確保して地域経済の沈下を防止し、“必ず帰れる”という希望を持たせる事業としてバイオマスタウンを創出したい。
論点4:エネルギー政策の見直しが求められている
(1) 関係省の主導で「水素社会」・「再生可能エネルギー」・「バイオマス・ニッポン」等々の施策が今日まで実施されている。しかし、「量」・「経済性」等の理由から、本格的実現には至っていない。
(2) 農業を工業化することにより、被災地の復興とエネルギーを結んで、世界の範となる事例をつくりたい。農産物のエネルギー化としてのバイオエタノールは日本国内で既に実現されているので、それらを拡大・発展させる方向としたい。
2)バイオマスタウンの創出
(1)バイオマスタウン
平成14年12月27日に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」を契機に始まったもので、“域内において、広く地域の連携の下、バイオマスの発生から利用までが効率的なプロセスで結ばれた総合的利活用システムが構築され、安定的かつ適正なバイオマス利活用が行われているか、あるいは今後行われることが見こまれる地域“と定義されている。 市町村が中心となって、地域のバイオマス利活用の全体プラン「バイオマスタウン構想」を作成し、その実現に向けて取組むもので、平成23年3月末現在で303地区の構想が公表されている。その中には、福島県の
(2)バイオエタノールバイオエタノールは、糖質原料(サトウキビ、甜菜)やデンプン質原料(トウモロコシ、ソルガム、ジャガイモ、サツマイモ、麦)などのバイオマス原料を発酵させ、蒸留して生産される。 バイオエタノールは、再生可能な自然エネルギーであること、および、その燃焼によって大気中の二酸化炭素(CO2)を増やさない点から、エネルギー源としての将来性が期待されている。
他方、生産過程全体を通してみた場合のCO2削減効果、エネルギー生産手段としての効率性、食料との競合、といった問題点も指摘されている。
(3)バイオエタノール実証事業
バイオマス・ニッポン総合戦略の流れの中で、「バイオマス燃料地域利用モデル実証事業」が農林水産省補助事業(平成19年度~21年度)として、
利用方式:ETBE
利用方式:ETBE
新潟県新潟市: 原料:米(イネ)、施設能力:1千kl/年、
利用方式:直接混合
(注)利用方式のETBE:バイオエタノールを製油所でETBEに転換した後、ガソリンと直接混合する。
直接混合:バイオエタノールをそのままガソリンと混合する。
(4)バイオエタノールのライフサイクルアセスメント (Life Cycle Assessment: LCA)
上記3実証事業をモデルに、投稿者はLCAを実施して、以下の結果を得た。
(東京大学大学院工学系究科・山田教授主催のIT-農業研究会で平成22年4月23日に投稿者が講演した。)
① デンプン質原料からのバイオエタノールは、石油由来のガソリンに比べて、エネルギー効率およびCO2削減効果の面で劣る。
② 糖質原料からのバイオエタノールは、石油由来ガソリンに比べて、エネルギー効率およびCO2削減効果の面で匹敵する。
③ 直接混合利用方式の方が、ETBE利用方式よりも、エネルギー効率およびCO2削減効果の面で優れている。
(5)バイオマスタウン
上記3事業はほぼ終了した。しかし、それら事業の結果をベースとした「バイオマスタウン」創出への拡がりは実現されていないようである。
その理由として下記が想定される。
① 原料の確保:多量に、年間を通じて、安定供給 → 耕作地の確保
② 原料種類:デンプン質は食料と競合、糖質は北海道に限定 → 糖質原料の確保
③ 事業の経済性:事業性がない、補助金が不可欠 → 税制面での優遇措置
3)フクシマバイオ燃料1号“よみがえる土”事業
(1)バイオ燃料1号の種類
バイオエタノールを製造し、ガソリンとの直接混合したバイオガソリンとする。
(2)バイオ燃料1号の原料種類
甜菜(サトウダイコン、ビートとも呼ばれる)とする。
現在の甜菜栽培は北海道だけだが、種の改良によって当該耕作地でも栽培が可能と思われる。甜菜は栽培に手間がかからず、化学品やエネルギー消費の少ない糖質原料である。 しかし、甜菜栽培は冬季に限定されるので、冬季以外の生産物(例えば、甜菜の超改良種、スイカ等)を検討する必要がある。
(3)バイオ燃料1号“よみがえる土”の使用先
地産地消を原則とする。地消先は、関連地方自治体、東京電力およびその関連会社、地域住民、当該地域の農作機械を対象とする。
(4)耕作地域
原発放射能被災地である、
(5)労働力
当該被災地に居住している農業専従者に加えて、様々なボランティア―や有志団体(若者、現役引退団塊の世代層、全国老人クラブ連合会、等々)の労働力を期待する。
(6)事業性
市場化価格で購入したガソリンに製造したバイオエタノールと直接混合してのバイオガソリン事業の経済性は成立しないので、事業性を成立させるための補助金が不可欠である。事業者の経営努力余地を残した補助金のタイプ(例えば、無税価格レベルのガソリン提供といった優遇措置)が好ましい。
4)アクションプラン
(1)実行委員会の設置
当該事業では以下の要件を織り込んだ委員会の設置が必要であろう。
① 農作地を継続的に利用すること。
② 対象被災地の住民意見の集約
③ 対象地域の住民と自治体による主導
④ 若い世代がリーダーで計画策定
⑤ いわゆる有識者は学者ではなく農業従事者
⑥ 福島県気質の尊重
⑦ 既にある方式での拡大・発展
(2)コミュニティの形成
(3) 栽培原料の検討当該自治体の農業部門とJAが、北海道の関係先と「甜菜栽培」に関して討議し、栽培のノウハウを取得する。
(4)原料栽培量の試算耕作可能地域の面積を算定して、栽培量、それを原料としたバイオエタノール生産可能量を試算する。
(5)事業性の試算 無税価格レベルのガソリン提供が受けられる前提で、事業性を試算する。
4)おわりに
(1)本稿では、バイオ燃料としてバイオエタノールを対象にしたが、例えばひまわりを原料としたバイオディーゼル(BDF)も考えられる。
(2)バイオガソリンではなく、家庭用を対象とした「バイオ灯油」も検討に値する。
-以上-
2011年5月5日 技術士 小林隆夫