太陽光発電について   2011/07/11  本多 信一

東日本大震災による東電福島第一原発の事故により国のエネルギー政策は岐路に立っ
ている。

エネルギー政策に関しては連日、新聞やTVなどで報道されている、6月27日の朝
日の「自然エネルギーの将来性、太陽光次第で脱原発も視野」を興味をもって読んだ。
2009年度の国内発電量の実績9,500kwhの内訳と国のエネルギー基本計画2030年目標
は下記に記す。
            2009年度実積(%)                2030年目標(%)
自然エネルギー                            1                             20(水力含む)   
水力                                              8
原子力                                          29                            50
火力                                             62                            30
20114月に環境省が今後の自然エネルギーについて、現状の技術で導入出来る可能
性の試算を行った。
「全量固定価格買取り制度」導入を見込んだ買い取り価格
20/kwh、買い取り期間
15年とすると最大で風力を約2,100kwh、地熱発電を約300kwh導入可能で09年
度発電量
9,500kwh25%に相当する。

この試算では太陽光発電の導入可能性は「ゼロ」だった。
発電コストが高く買い取り額を高めの36円に設定しても
「発電事業として採算がとれない」というのが理由。

家庭への導入を進めることや、技術開発でコストを下げて採算性を高める必要がある。

太陽光の上積みが見込めれば、現状の原発の割合である29%に近づき「脱原発」が視
野に入るというのが結論である。
また7月4日の朝日「自然発電:世界では成長産業」にはソフトバンク孫正義社長の
「田んぼから電気を」、名付けて「電田(でんでん)プロジェクト」では日本の休耕
田は
20ha、耕作放棄地34haありこの2割に太陽光パネルを敷き詰めれば、東電の
発電能力に相当する5千万
kwが可能と読んでいる。
自然エネルギーの普及と農業荒廃の悩みを一石二鳥で解決する妙案だけに35の道府
県が賛同している。

自然エネルギー

人類が使うエネルギーを分類すると化石由来エネルギーと非化石由来
(自然エネルギー、核エネルギー)とに分かれる。
自然エネルギーには水力、地熱、太陽光、太陽熱、風力、バイオマス、海洋エネルギ
ーがありこの内の商業ベースで実用化されている水力、地熱を除いたもののエネルギ
ー源は地熱、潮汐を除いて全て太陽です。
地球に到達する太陽のエネルギーは太陽の総輻射量
3.85×1026wと地球迄の距離1.5
kmから算出すると1370w/mとなる。
地表の太陽光パネルには大気の反射、吸収があるので約
1000w/m(快晴時)と推定
する。一方地球に到達する太陽エネルギーの年間総量は全人類が年間消費する一次エ
ネルギーの約
1万倍ある。
総量は十分あるがエネルギー密度が低いので自然エネルギーはコスト高になる。
自然エネルギーの利用を推進するにはコストダウンが必要である。
また天候、日夜などによる発電量の変動を、平準化するため火力と水力発電の組み合わ
せでバランスをとる、充電設備でのバックアップ、地域でのスマートグリッド制御導入
などが必要である。

  太陽光発電と火力発電の出力密度の比較

太陽光発電と火力発電の出力密度を大雑把に比較してみる。
NEDOの太陽光発電予想は地域により天候事情が異なるので全国47都市のそれを平均す
ると1
kw容量の設備で1050kwh/年です。
47都市の天候等によるバラつきは±10%程、最大は高知の1151kwh,最少は大津の919kw
h,
東京は997kwhです。1kw太陽光発電システムの設置面積を7.5 mとすると年間発電
量は
140kwh// mとなる。火力発電所は今後主流になると予想する東電の川崎火力発電所の例で考える。
発電設備は1号系列
150kw(稼働中)2号系列192kw(建設中)、合計342kwを敷地面
28万㎡ で生産している。
稼働率
90%と仮定し、年間発電量を敷地面積で割ると1.010kwh// mとなる。
これは太陽光発電の約
700倍である。
川崎火力の発電量を太陽光発電で発電すると
28万㎡×700=200k㎡必要となる。
これは東京23区の約3分の1を占める広大な面積となる。

 コスト

住宅の屋根に取り付ける太陽光発電システムの価格を電機量販店で調べた。
その内の一例
国産メーカーの出力2.53kwシステム:設置工事費込みで価格は158万円(62万円/kw
で試算する。

補助金は国から48,000/kw、県(埼玉県の場合)から40,000/kw、その他市町村に
より補助金を出すところがある。
電力の固定価格買い取り制度には二通りある。
(1)全量買い取り制度(国会に提出されている再生エネルギー法、ドイツの制度など)
(2)余剰電力買い取り制度(現行制度)
である。

全量買い取り制度で検討する。
年間予想発電量は1015kwh/kw(浦和)、今の固定買い取り価格42/kwhが続くとして償却
期間を算出すると
12年半になる。
発電期間20年、利益は多くないがペイする。
一方余剰電力買い取り制度では大変不利になり明らかにペイしない。
コストの高い太陽光発電を推進するには国の思いきった政策と幅広い市民の支持が必要
と考える。

全量買い取り制度や高めの買い取り価格で参入者を増やす。
太陽光発電システムの価格は数量が増え生産規模が2倍になるごとに2割下がるという。
また現在10%台の発電効率のアップも望まれる。

買い取り価格は発電原価が下がれば下げればよい。
またグリーン電力選択制などによる消費者の理解と支援が必要である。
菅構想の一千万戸に太陽光発電を20年代前半までにつけるは、2kw/戸としても全国
消費電力の2%を賄い、投資額100万円
/戸としても10年で10兆円の大プロジェク
トになる。成否はコストダウンにかかる。

効率の良い太陽光・太陽熱ハイブリッタイプドの使用も良い

  太陽光発電の将来

NHKの科学番組サイエンスゼロで日本とアルジェリアの協力プロジェクトサハラ砂漠
の太陽光発電をみた。

広大で、日射量豊かなサハラ砂漠で太陽光発電を行い、それを超電導で全世界に供給す
るというもの。超伝導の開発がカギを握る。是非日本の技術で超伝導を開発したい。

開発できれば世界のエネルギーは太陽光発電だけで供給出来る。
時差を考慮した世界の数箇所の砂漠で太陽光発電を行い超伝導送電網が敷設できれば、
世界中に24時間中十分な電気を供給できる。
太陽光発電・太陽熱発電だけで世界の全消費エネルギーを供給出来るとともに、原発
の代替、温暖化の阻止、化石資源の保存につながる。

試算してみると面積は60万k㎡必要になる。サハラ砂漠907万k㎡、オーストラリア、
北米、アラビア、ゴビ(
130万k㎡)など十分ある。
番組のコメントでは送電網の敷設はインターネットが光ケーブルによって世界中が短
期間で結ばれたように短期間で可能であるとのこと。
現状の船で化石燃料の石油、石炭、天然ガスを世界中に運ぶことよりはるかに効率的
で省エネとのこと。
またこのプロジェクトでは核になる太陽光発電所のエネルギーで砂漠の砂を原料にし
てシリコンを造りそれで造った発電設備を周囲に広げて行くとのことである。

日本ではエネルギー、鉱物資源、食糧などの自給率は大変低い。
洋上の風力・太陽光エネルギーを利用して海底や海水中の資源やエネルギーを開発す
べきと考える。
陸上では自然エネルギーによる地域産業の振興、高付加価値農産物の生産、林業の再
生など数多く考えられる。
最近の新築一戸建て住宅を見ると太陽光・太陽熱を取りこんだものが増えている。
設計段階から計画すれば屋根材兼用の太陽光パネルもありコストダウンになる。
太陽熱暖冷房・給湯、建屋の断熱,LED照明、電気自動車などの省エネと組み合わ
せればゼロカーボンハウスも出来、エネルギーの自給も可能となる。
東日本大震災から本日で早や、4ヶ月過ぎた。大変な犠牲を払ったこの大震災を機に
今までの大量生産大量消費の社会からシフトチェンジして自然エネルギーの開発・運
用に当たれば
2050年のCO 80%削減は可能と考える。
また物質のみならず精神の豊かで高度な社会・日本にするべきである。
「了」

このレポートについて電気関係(送電)の専門家から反論があり非現実的だと反対が
ありしばらく意見の交換が続いた。これに対し稲生理事長の意見は次である。
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以前から私は専門という意識を持たないことにしています。
 経験から、自分は自動車の専門家であると意識した途端に視野が狭くなり、大局的に
物事を観、判断出来なくなってしまうからです。
大局的な事象に於いては専門家でない方が正しい判断が出来る事例を沢山見てきました。
都合の良い時は専門家ですと云って、都合が悪くなると、私の専門外ですからと云って
逃げてしまう人達も沢山見てきました。
大局観と本質を見る目があれば専門外のことも同じに見えてきます。
当NPOの3名の方が専門外のガス化装置のコンサルを立派に果たしています。
私も鉄道技術の指導を9年間続けていますが、専門外という理由で困ったことは一度も
ありません。明日から名古屋で段ボール製造機械メーカーの技術指導を行います。
論点の砂漠での太陽光発電、賛成です。
効率、送電、そして天候に左右されないための蓄電技術共に50年もすれば、画期的に
進歩するはずです。
 50年前に(小生が大学3年)専門家が不可能と云っていたことのほとんどが現在で
はあたりまえの技術になっています。

現在の技術の延長線でしか考えられない視野で将来の夢や希望をつぶしてしまうことは若い技術者諸君に対しても慎まなければなりません。更に、K-Betsの皆さんにも過去の専門家意識を捨てて下さいとお願いしています。

本多さんの原稿、現実論と将来の夢がバランス良く含まれていて大変良いと思います。

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