8. ハーフパイプの効用
Kシステムにおいては、ハーフパイプを用いることにより多くの利点が得られ
ます。その利点についてまとめてみました。
(a) 立ち木を傷つけない
ハーフパイプを数本繋いでボートウィンチなどで林内を引きずって移動します。
そのとき立ち木の根元を通過しますがハーフパイプは軽くて表面が平滑なので
幹の表面を傷つける心配は殆どありません。木寄せ作業ではハーフパイプの中
を通して木を運びますから立ち木を傷つけることがありません。
(b) 木寄せ経路のパターンを自由に設計できます
鎖だけですと山の斜面に対して最大傾斜線に木寄せ経路を取らなければなりま
せん。鎖に木を繋いだ状態では斜面に対して斜めに経路を取ると木と鎖が重い
ので谷側に撓み込んで立ち木や切り株にぶつかったりして作業性が落ちること
が予想されます。ハーフパイプを使えば、木と鎖を包み込んでしまうので谷側
に撓み込むことがありません。
ハーフパイプと鎖の組み合わせにより残したい木や岩、小川など障害物を避け
て木寄せ経路を自由に選択できるようになります。
した経路を取り、その後、斜めの直線経路を取っています。パターン(b)の場合はカーブが無く、全て直線です。
(b図中の点線部はハーフパイプ経路ではなく林中でボートウィンチなどを使って、
木を引きずり出す経路を示します)
この他、山の形や現場の状況に合わせて木寄せパターンを設計することにより、
複雑な形をした日本の山にフィットした木寄せ作業が出来ると思います。
(c) ハーフパイプの使用で駆動馬力を大幅に引き下げることが出来ます
先にも述べたことですが、木と地面との摩擦係数より、木とハーフパイプの
摩擦係数はかなり小さくなると予想されますので木を引き上げるのに必要な駆
動馬力が小さくなります。
(d) ハーフパイプは軽くて扱いやすく補修も簡単に出来、丈夫で長持ち
です。
(e) ハーフパイプ同士を専用の金具で簡単に接続出来ます。
9. 立ち木の伐採と引き出し作業
立ち木の伐採にはいろいろな方法がありますが、K-システムではチェーンソー
により伐採するものとします。
また伐採した木を林内から引き出す作業はボートウィンチなど小型ウィンチを用
いることとします。
今後もっと手軽で便利な道具はないか研究、検討を進めますが当面はこの方法で
話を進めます。
チェーンソーによる立ち木の伐採は最も基本的な作業ですが決して簡単なもので
はないようです。
伐倒する方向を決めて木の幹に受け口、追い口の切り込みを入れるのですが予定
通りの方向に倒すには一定の経験が必要なのだそうです。
間違えれば,思いもかけない方向に倒れて大怪我の元になったり、他の木に倒れ
掛って「掛り木」となり作業能率を大きく損なうことになります。
次に倒れた木を林内から木寄せ経路まで引き出す必要があります。
木をワイヤーで縛り、小型ウィンチを使って引き出します。 (a)ボートウィンチ
下図にボートウィンチの図を示します。
このボートウィンチは狭い林内で、木を運搬するのに非常に便利な道具だと思います。
ボートを木に結び付けてウィンチを廻せば木を簡単に引き寄せることが出来ます。
ウィンチのワイヤーを伸ばして進みたい方の木に縛りつけウィンチを廻せばボー
トは舳の効果で立ち木の間を縫うようにして、縛り付けた立ち木の方にスムーズ移動
します。 この写真にあるボートウィンチは30年前にヨーロッパから輸入されたもので
すが、いまだに現役で活躍しています。
驚いたことに、購入した時のワイヤーを一度も取り替えたことが無く、今も使
っているそうです。
伐倒した木を集材したい方向の立ち木に滑車を取り付け、滑車にワイヤーを通
し、ワイヤーの先に木を縛りつけウィンチを廻せば、木を引きずり出すことが
出来ます。
滑車を幾つかの場所に取り付けておくことにより、ワイヤーを架け替えるだけ
で自由に引き出す方向を選ぶことが出来ます。
(b) 集材場所と集材方法
Kシステムを採用することで集材方法が劇的に変化します。
機能的にKシステムを活用する方法を提案します。
チェンソーで伐採した木を集める場所を「集材スポット」と呼ぶことにします。
狭い林内で長い木を引きずる作業は、立ち木の密度が高いところではとりわけ
困難な作業です。林内を見渡して作業のやりやすい場所を決め、そこを集材ス
ポットと決めます。
その時その周辺で特に残したい木があれば、集材スポットはその木の生えている
場所を外します。
集材スポットは10m×4m程度の面積が必要でしょうか。
その周囲数mの範囲の木を伐採し、集材スポット(以下スポット)までボートウィ
ンチを縦横に使って引きずり出し並べておきます。
各所に出来たスポットをめがけて鎖とハーフパイプを敷設します。
あとは木寄せ作業を待つだけです。
いうまでもなく林業は長い歳月をかけて木を育てあげ、最終的に建築用の角材
などを収穫するのが主な目的です。
ひ弱な苗木を風による倒木や雪の重みに耐え易いように、また真っ直ぐな木に
育てるため密植します。
植樹方法は地方によって違いが大きいようですが、平均的な方法ではha当り
3,000本程度の木を植えます。
戦後、木材不足を受けて、当時の政府は1本植えるといくらという奨励金を支
給したので、山主さんたちの中にはha当たり6,000~10,000本も植えたという
極端なケースもあったようです。
間伐を繰り返し、目的の木を伐採する時にはha当たり500~600本程度が残さ
れ最後に主伐といって目的の伐採を行います。
従って間伐目的は最終的にha当たり500~600本残すようにすればよい訳です。
この最終的な状態を絵にしてみました。
8.5m四方の面積に対して、碁でいうところの正目、つまり9本の木が残ることにな
ります。10m四方では5.5本の木が残っている計算になります。
この時、木と木の間の最小距離は約4mになります。
植樹するときは植えやすいことから、等高線に沿って植えていくようですから、
図のようにきちんとなってはいないでしょうが、3,000本からに550 本を選別して
間伐するわけですから間伐の木を選ぶのは相当に自由度があると思います。
図の場合最大傾斜線に沿った搬出道を作る場合約2.5mの許容幅があります。
ハーフパイプの直径を0.4mとすると幅方向で約2mの余裕になります。
ハーフパイプは5m毎の繋ぎ目で角度が付けられますから、残したい木を決めて
おけば、殆ど自由に搬出経路を決めても大丈夫ということになります。
この図をイメージして頂ければスポットを造る時、集材経路の取り方を決めるの
にそれ程困難を感じないで実行できる筈です。
(c) 集材スポット
Kシステムで間伐を行うとき、以上のことを考慮に入れて間伐作業を行うことと
します。
木を伐採後近くの場所まで木を引きずり集める場所を「集材スポット」と呼ぶこ
とにします。この場所は鎖の通過場所に沿った位置を選びます。
図に示すように予定される鎖の通過場所に幅4m長さ約10m程度の場所を決め、
その場所に生えている木を伐採します。
その場所の中に、どうしても残したい木があれば,その木を外した場所を選定し
ます。
集材スポットにあらかじめ集材した後、鎖とハーフパイプを集材スポットに向け
て敷設し、木寄せ作業を行う方法も可能です。
集材のための人員が不足する場合(少人数編成の場合)に有効な方法となります。
この方法を取れば間伐後森の中に点々と集材スポットが残るだけで、列状間伐と
は大分違う様子になります。間伐道の間を強風が吹いて、木がなぎ倒されるなど
のトラブルを防ぐことが出来ると思います。