オーランチオキトリウム系の微細藻類で燃料を作る 2016年11月24日 廣谷 精・渡辺雅樹

K-BETSの研究会の中で藻類からエネルギーを取り出すことに関心を持っている人達が集まっているのがこのアルジェ研究会である。
日本は世界の国々の中で唯一資源環境として持っているのが長い海岸線である(第6位)。
大陸国家と違い海の資源が活用でき易い条件に恵まれている。藻類からエネルギーを取り出したいと取り組んでいるが現在は高価な健康食品や家畜の餌などが優先されてエネルギーを取り出す技術開発は遅れている。
しかし研究の結果有望なアイデアも出されてきているのでオーランチオキトリウム系の微細藻類の話題を中心に情報をまとめてみた。 

(1)微細藻類で石油をつくる           アルジェ研究会  2016/11/13
食料と競合しない新たなバイオマス燃料が誕生できるか?
バイオエタノールやバイオプラスチックの製造は石油由来の製品を、生物の発酵によって置き換えようとする試みである。
石油は「炭化水素」と呼ばれる、炭素と水素からできた化合物の混合体で、燃料やプラスチック原料以外にも、いろいろな化学製品の原料となっている。
一方で石油は有限の資源でありいずれ利用できる石油資源が枯渇することは明らかである。そこで、バイオエタノール、バイオプラスチックに留まらず、さらに多くの石油代替品を微生物の力でつくろうとする研究が始まっている。
一つの例が海や淡水に住む「微細藻類」である。
この微生物は太陽光と炭酸ガスから光合成で作るタイプや環境中の有機物を栄養として活動する生育タイプのものなど様々な種類がある。
多くの藻類がつくる油は「トリグリセルド」と呼ばれる植物油脂型であるが、「ボトリオコッカス」という藻類は石油と似た炭化水素(ボトリオコッセン)の生産性が高いことが知られている。これを輸送用燃料(特に航空燃料)として利用されることが期待されている。
実現できれば食料生産と競合せずに藻類の光合成で直接的に燃料を得ることが可能になり期待を集めている。

生育タイプの「オーランチオキトリウム」という微細藻類の中にスクワレンという炭化水素の生産能が高いものが見つかっている。
これらの微細藻類から燃料を取り出すためには、大規模な培養技術を確立して生産能力を上げ生産コストを石油に近いレベルまで下げることが課題である
科学技術の進歩によって環境にやさしいバイオマスの藻類から燃料を得る時代が近づいている。
「トコトンやさしい発酵の本」第2版 協和発酵バイオ株式会社編p146参照

(2)海のバイオマスの種類                         廣谷 精
陸のバイオマス成分としては澱粉、セルローズ、セミセルローズ、リグニンなどがある。
海のバイオマスでは海藻が主体であるが中味を分類すると以下のようになる。

1)褐藻: コンブ、ワカメ、ホンダワラ
2)紅藻: アサクサノリ、マクサ
3)緑藻: アオノリ

海藻の王である昆布について内容を検討すると

➀ Laminaria                 日本の食卓に出るもの アルギン酸製造のため造られている 中国・山東省や北欧でも数ケ所

➁ Macrocystis               和名オオウキモ、通称ジャイアンドケルプ 東北太平洋、南太平洋に分布する 全長10mの長さになる

➂ Lessonia            南アメリカに産する

➃ Ascohyllum             北欧沿岸に広く分布する アルギン酸の原料や肥料などになる

➄ Durvillea           オーストラリア南岸、南米沿岸に産する

➅ Ecklonia            南アメリカ南岸に産する大型海藻(Sea Bambooとも)

ラビリンチュラ類(オーランチオキトリウム属)で利用できるもの
(海水等塩分のある所で培養でき、下水(含む塩分)でもその可能性はあるもの)
オーランチオキトリウムが資化できるのは主に単糖等であり、
グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、グリセロール等が現在分かっている。

海藻の成分の説明
1)マンニトール: グルコノバクター属株(酢酸菌)(Gluconobacter)はマンニトールを真水で培養する事が必要で、それによってオーランチオキトリウムが資化可能なフルクトース(収率90%)に変える事ができる。 オ-ランチオキトリウムがフルクトースを利用するには海水が必要であり、2段階の培養が必要となる。

2)アルギン酸:アルギン酸は食品として増粘剤として即席麺、パンなどの生地に使われる。それは海藻の乾燥重量のマンニトールと同じ量(30%程度)がある。アルギン酸を分解するべくジスコノモナス(Dysgonomonas)属株を培養したが、培養上清(うわずみ)にある物質でオーランチオキトリウムの培養に顕著な効果があることが分かった。オーランチオキトリウムの原料となる基の物質(餌)は何であるか未だ固定されていない。

3)フコイダン:ネバネバの元がこれであり、多糖類であるが未だ研究されていない。

4)ラミナラン:グルコノバクターはラミナランをオリゴ糖に分解するが、オーランチオキトリウムが利用出来る単糖までには分解できない。しかしその上清でオーランチオキトリウムを培養すると菌が増殖し、オリゴ糖を資化している可能性もある。
*注 資化とは  微生物、藻類が原料、食糧をエネルギーに変え、化学的に違う物質にすること

(3)微細藻類にエサを与える研究開発の必要性                                   2016/11/15渡辺雅樹

目的: ―光合成を行わないタイプのオーランチオキトリウムの「油脂生産性」を高める-

広島大学大学院先端物質科学研究科 秋 教授
「海洋生物資源を利用した有用油脂の生産」の講演会論文から 生産性を高めるためにどうするかの研究内容を要約する。

微細藻類が海藻類をエサにしているか
「オーランチオキトリウム」が直接に、海藻類をエサにしていることは無い。
海藻類に含まれる(割合30%)「マンニトール」をエサの原料にする。
「マンニトール」からオラン君(オランチオキトリウムの愛称)が食べられる「フルクトース」に変換する。この工程には、「酢酸菌のグルコノバスター属」が有望株だと選抜された。
「フルクトース」に変換するには、塩分1%以下の環境にする必要がある。この工程には、大型化と同時に、高効率変換する技術開発が不可欠である。

現状の変換率

・昆布に含まれるマンニトール成分。                           30%(他の海藻類は、20%程度)

・「マンニトール」から「フルクトース」に変換。            80%程度か?(廣谷)

・「フルクトース」を食べた「オラン君」の油脂含有率       推定20%

以上が「広島大学の 秋教授」の研究成果の要旨
実験室レベルでは、石油同等の油脂が、生産可能であることは実証された
変換効率からは、原料の海藻類からの油脂変換率は5%程度である
昆布を原料とすると、昆布の工業用原料価格を想定10円/kgでは 油脂の価格は200円/kgと想定される。(原料費のみ)

生産コストを削減するには

・海藻類(昆布など)の原料価格を下げる。当面の目標は5円/kg

課題:昆布などの副産物の付加価値を活かす。アルギン酸の商品化など

・原料からの油脂変換効率を上げる。 目標は10%以上。

課題:「オーランチオキトリウム」の油脂含有率を向上する研究

・「オーランチオキトリウム」に含まれる成分の活用。

課題:アスタキサンチン(抗酸化剤)を健康食品に利用する商品化など

(4)講演会 「海洋生物資源を活用する油脂バイオテクノロジー」 2016年11月24日 広島大学 秋 庸裕教授

石炭化学➔石油化学と推移してきたバイオ燃料・ケミカルも海藻糖質を原料としたニューフィンケミカルが発達して行けば21世紀は海藻化学の時代が到来しよう。
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微細藻類から油脂製造の経過
最初に取り組まれたのはサプリメントなど高価な商品、次が飼料など1000円/kg以上のもの。現在数百円/kgの製造コストのレベルになっている。2020年には100円台に突入し燃料・化学原料の用途の分野に進みたい。 東北復興次世代エネルギー研究開発として現在筑波大・東北大・仙台市が取り組んでいる。オーランチオキトリウム型とボトリオコッカース型両者を取り込んでいる。

H24-H28年度JST CRESTの研究開発テーマ「海洋微生物発行制御を基盤とした大型藻類の完全資源化基盤技術の開発」が始まっている。取り上げられているのはオーランチオキトリウム。海藻糖質を直接資化(食べる)できないため清酒がデンプンから二段階発酵によって作られるように発酵処理により他の物質に変換して資化する工程を取るため変換効率に左右されて生産量が変化する。
主なプロセス(二段階発酵による油脂の生産)

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実験室的な側面からはオーランチオキトリウムを使った油脂の生産は可能である事は証明されているが工業的規模で化石燃料を凌ぐレベルに到達するにはまだまだ多くの課題が山積しており大学研究室から脱皮した専門家集団の全面的なバックアップが必要と思われる。

以上                                                  編集 福島 巖

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