佐渡は昔から天然スギの島でした。「続日本紀」(757年)に大和朝廷が、奥羽征伐のための舟をつくる舟木を伐らせた島としての記録があります。現在も大佐渡山脈の標高900mの北西斜面に、500haにわたってその天然スギが分布しているのです。
昨年からその天然スギを巡る周遊路がつくられて、両津からライナーバスが運行するようになりました。土日と祝日のみの運行とのことですが、これを見逃すわけにはゆきません。前日に秋田駒を歩いてよい気分のまま新潟にきたので、思い切って日帰りで訪ねてみることにしました。
早朝の雨も上がったので、9時30分発のフェリーを目指して、自宅から自転車で信濃川の対岸にある佐渡汽船の港に駆けつけました。これが地方都市のありがたいところです。新潟に生まれ育ったので、佐渡はごく身近な存在でしたが、あまりに近すぎてかえって行く機会は少なく、これがやっと3回目なのです。
佐渡に渡るには、快速のジェットフォイル(片道6220円・1時間)と、5300トンのフェリー(2等2320円・2時間半)がありますが、ここは迷わずフェリーです。安さだけでなく、時間はかかりますが自由にデッキを歩き回る楽しさがあるからです。
出航の合図も、船員が銅鑼を叩きながら船内を回ります。それだけでも船旅の気分になれるのですね。おけさ丸はおおぜいの観光客を乗せて22ノットで港を出ました。今日の日本海はやや風があって、海面に白波が立っていましたが、ほとんど揺れを感じません。たくさんのウミネコがフェリーについてきます。デッキの乗客の差し出すエビセンを狙っていますが、それだけではない。彼らは明らかにフェリーと遊んでいるように見えました。
外洋は晴れ 佐渡は雨模様
外洋に出ると青空になりました。航跡はどこまでも美しく、2時間はあっというまに過ぎて、目指す佐渡島が見えてきました。ところがなぜか島の上だけがまた雨雲なのです。両津に上陸したらもう雨が落ちてきました。9時30分両津発の20人乗りライナーバスの乗客は、一般の女性3人組、雨支度のしっかりした山ガール、それに私の5人です。しばらく両津湾に沿って北上してから山道に入りました。タニウツギの花が目を楽しませてくれましたが、高度を上げるに従って雨は強くなってきます。終点の駐車場からは傘をさしての出発になりました。
石名天然スギ遊歩道入口 タニウツギの花
ここは標高900mの大佐渡石名(いしな)の天然スギ遊歩道です。往復だいたい1時間のコースで、よく整備された山道の霧の中に次々と天然スギが現れました。パンフでは樹齢は2~400年が通説といいますが、その苛酷な自然に耐えた妖怪のような姿は、とてもそんなものとは思えません。樹齢はもっとあるでしょう。樹高は20mにも達しませんが、胸高周囲は6mから最大12mを超えるものまであります。日本海からの強烈な季節風、深い積雪、年間を通じて立ち込める霧がこのような奇形をつくったのです。そのため全く用材には向かないことで、このように生き延びてきたというわけです。雨と霧の中で幻のように現れる天然スギは、まさに大自然のつくったオブジェのようでした。
羽衣スギ 象牙スギ
それぞれに一般から募集した名称がつけられていましたが、それは余分なことでしょう。ここで石名天然スギをもっとご紹介したかったのですが、レンズに雨粒がついて写真になりませんでした。これだけでご諒承ください。この遊歩道の奥には、新潟大学の演習林500haがあって、さらに多くの天然スギが残っているそうです。入山するには大学の許可が必要で、特別のツアーに限られるとのことでしたが、私はこの遊歩道の天然スギの饗宴をすっかり堪能して、駐車場に待つライナーバスに戻りました。
佐渡は朱鷺だけではありません。また行ってみたくなりました。「了」