― 生物の体に記された宇宙全史 ―
著者はシカゴ大学の古生物学者です。グリーンランドの東岸に2億年前に存在した爬虫類と哺乳類をつなぐ結び目を求め、3年にわたる探索によってついにその最古の化石を発見しました。その小さな歯は、遠い昔に失われた世界と、私たち人間との結びつきを表すものだったのです。化石だけでなく、地層には気候、大気、そして地殻そのものの変化が、いくつもの地質時代にわたって記録されていました。岩も生物の体も、それが形成された大きな出来事の痕跡をとどめたタイムカプセルです。私たちの体を構成するさまざまな分子は、はるか遠くの宇宙に由来していました。古生物学が天文学とつながったのです。
人体を構成する元素は、酸素や炭素など反応性に特徴があります。代謝、生殖、成長など生命を定義する化学反応に関与し、細胞、組織、器官を形成してさまざまな機能を表します。そこにある階層構造は、世界の基本原理であり、生物の系統樹を遡ることによって、類縁関係を知ることができます。しかしこの作業は生き物だけにとどまりません。宇宙にまで拡がっているのです。その宇宙の認識は20世紀に入って大きく進展しました。
ビッグバン以来、無数の銀河や恒星が出現しては消えてゆきました。とくに超新星の爆発は、多くの原子を銀河にばらまきます。銀河や恒星、あるいは人間も、天体の誕生と死を何度も経験してきた粒子たちを、一時的に所有しているに過ぎません。私たちと地球が消滅した後も、これらの粒子は別の世界の一部として存続してゆくことでしょう。
地球上では、2億年以上前に太古の超大陸に亀裂ができました。ヴェゲナーの大陸移動説は長い間異端とされていましたが、第2次大戦前後からその例証が続々と発見されて、これまでの難問が一挙に解明されることになりました。本書ではその過程が詳しく語られています。いわゆる温室効果についても、アレニウスによる炭素の循環説で明らかになりました。大気中の炭素は酸性雨となって海に流れ、生物に取り込まれて海底に堆積し、地殻の内部から火山ガスとしてまた大気に戻ります。そのバランスの上に気候があるのです。
数億年にわたって北上を続けていたインド大陸プレートがアジア大陸に衝突して、ヒマラヤ山脈とチベット高原が出来ました。その露出した岩肌が侵食されると、大気中の炭素が川に流れ、地球は一挙に寒冷化して氷河時代を迎えました。多くの種は絶滅しましたが、誕生したばかりの人類は、その優れた視覚によって食物を探して生き抜いてきました。
しかし生物が快適に暮らせる今の地球は、あと10億年で終わるといいます。私たちは生物として継承した形質を拡張して、広大な宇宙を見、137億年の歴史を知り、宇宙の星やほかの生物との結びつきを探ってきましたが、それは天空の時間で見れば、ほんの一瞬の存在に過ぎないのです。これは、小さな化石から始まった現場研究者の物語でした。「了」