「複合汚染」 有吉佐和子著 2013年5月7日 福島 巖

  複合汚染とは何か
2つ以上の毒性物質の相加作用および相乗作用で一つ一つの物質は極微量であっても一日何百種類の農薬や添加物の食品を食べ汚染された空気を吸って生きている。このため相乗効果が働いて大きな健康被害を引き起こすことがある。この相乗作用を実験室的に解明することは余りにも複雑すぎて困難であった。DDTPCBなどによる汚染によって人体に入った物質は水に溶け難く、汗や尿としては排出しないため体の中に蓄積されて健康を蝕んできた。

農薬使用量
1967
年の調査では耕作地1ヘクタール当り日本、イタリアなどでは10kg、西独、米国、カナダなどは1~1.5kgと日本は異常に高かった。
本来は害虫がでてからその駆除に使うべき農薬を予防薬として大量に散布してしまったことに依る。泥がついている野菜は鮮度の保証。虫食いの無いリンゴやミカンを求めるあまり皮にワックスをかけるものまで現れた。栄養価で野菜を分類すると堆肥で育てた野菜は甘くて、コクがあって、匂いもよい。一方化学肥料で育ったものは味が無くてパサパサしている。
農家の人は自家用には農薬を使っていない。虫食いの野菜、曲がったキウリを同じ値段で買ってくれれば無農薬野菜はいくらでも作る。イチゴ栽培農家の隣の人は徹底して行われる消毒をみて「イチゴは絶対に食べない」と言っている。ではお茶の葉はどうか。お茶は葉を洗わずにそのまま湯を注ぐ。今の葉は「お茶」ではない、土が違ってきているからだと玉露作りの名人は話している。

BHC殺虫剤は米人の数十倍ものものを米作地帯で蓄積してしまった
米の害虫「ニカメイ虫」の駆除に効果があることが分かった段階で全国的に広まった。塩素系のBHCはαBHCからδBHCまで4種類が含まれていて殺虫効果があるのは14%を占めるγBHCだけであるのに農薬会社は簡単にできるγBHC単体を作らずに大量の殺虫剤を農家に送り込んでしまった。

DDTの農薬としての使用
第2次大戦で熱帯のマラリヤ蚊やのみの駆除に使われていたものを殺虫剤として使用した。余りにも強い毒性のため1962年に警告が出された。DDTBHCは昭和46年に使用禁止になったがそれまでに米国と比べ6~7倍の量が投入されてしまった。

有機水銀
稲のイモチ病の特効薬で1952年から種籾を播く前に消毒した。田植えの後にも散布、空中からもヘリで撒いたことがある。その結果ウンカやクモまでも全滅してしまった。5年後農家に肝臓障害などの深刻な病気が発生し始めた。東京オリンピックの時各国の選手の頭髪に含まれる水銀含有量を調査したデータがある。単位はppm
西独 0.10 英 1.50 米 2.57 日本 6.50 断トツの汚染状態だった。
田畑 1haに投じた水銀農薬 の量単位グラム
西欧 6 米 25 日本 730
農家は田の草取り作業から解放される喜びで農薬に飛びついてしまった。

除草剤は1941年米国で合成された
1952
年から国産化され15年間で激増している。人間の口に入れば体内に残留してしまう。ベトナム戦争では米軍が除草剤散布作戦を展開し、子供を殺し、土や水にしみこんだ薬剤でベトナム人の健康を脅かした。

ホリドール(パラチオン)
第1次大戦後フランスに米国産の葉虫が入りジャガイモ畑を荒らし始めた。独バイエル社が農薬の研究を行い1938年有機リン系農薬を完成した。その後、化学兵器の毒ガスの開発が行われ、タブン、サリン、ホリドールができた。戦後はホリドールが殺虫剤として広く導入された。

生産改善活動が病気を増やす結果になった
キャベツに千倍に薄めたホリドールや有機リン酸系の農薬を出荷前に振り掛ける。いつまでもしぼまずツヤが残るのでお客さんには評判が良い。農薬を多量に使ったことで農村に胃病と肝臓病が増えた・・精神障害でノイローゼになる人が多くなる・・無気力で何もしたくないという過程で問題が深刻になった。
死の農法につながったため1968年ホリドールは使用禁止になった。有機リン酸系農薬は低毒性の名目で殺虫剤と除草剤に使用され続けている。これらの影響は手足が冷える、貧血が起きる、疲れやすい、目がくらむ、何をするのもいやになるといった形で現れる。 神経系統からやられてくるので病苦と首つり自殺につながっていった。

赤ちゃんに奇形児が
1万人の赤ちゃんが生まれると3~4千人が奇形児、障害児、難病、奇形の持ち主になっている。排気ガスと工場の煙で大気が汚れ、企業の垂れ流しで海が汚れた。殺虫剤の毒性が判明して使用中止になった薬剤が禁止になるまでの9年間は、平然と使われ、できた農産物が食べ続けられていたわけである。

奈良県五條市の医師梁瀬さんの主張
農薬の害について調査しその警告をパンフレットにし啓蒙活動を行っている医師がいる。今の医学は人間が持っている生命力を無視している。「病気は薬で治せる」というのは間違いで病気を治すことにより新たな病気を作り出している - このことを「医原病」と呼ぶ。
現代人の生命力が弱くなっているのには食生活に問題がある。有機農法以外の方法では日本民族は生き残れない。

米の消費を減らしたもの -伝統農業の喪失
米の消費ピークは1962118kg/人であった。1954MSA協定(相互安全保障法)が成立してコッペパンと脱脂粉乳がただで入ってきた。パン食が増えていき米の消費が減る現象が起きる。自給率100%から米が過剰になっていき減反政策が導入される事態になってきた(1970年)。農業近代化で失ったもの「農家の自給生活」の原則。日本農業の伝統であったその地域で作れるものは何でも作って暮らしを賄うという事が否定された。機械化の負担に出稼ぎに行かざるを得なくなって農村はゴーストタウンと化した。

商業に痛めつけられた農業
野菜の規格、品位、大小、量目と包装で出荷価格が決められた。キウリだけで13階級に分類され曲がったものは半額になるという馬鹿げた分類がなされている。
冷蔵庫が普及したのに防腐剤の使用が増えている。漬物の例では(京都の柴漬け): 塩漬けするが塩は最高の防腐剤の役割をする。しかし重しをすると水が抜けて目方が軽くなってしまうので水を入れて量を増やす。腐りやすくなるので防腐剤を入れ、かつ調味料を入れて味を調えるといった処理がなされる。色が悪い、腐りやすいといって薬物処理が行われるので本物は作れなくなってきた。
防腐剤、調味料、保存料、着色料を使って作るのが現在の漬物の姿である。

有機農法への取り組み
農家の人が農薬を使うと家族の健康が心配になってきて農薬を使うのをやめたい、と考えるようになってきた。化学肥料を使うと作物の生育は良いがひ弱なものができて虫に食われるので殺虫剤をふんだんに散布する。農業業の近代化策として耕作機械の導入、化学肥料や殺虫剤、除草剤など農薬を大量に使うシステムができ上がった。機械だけで1千万円を超える借金が必要で、それも4~5年で壊れたり、メーカーが頻繁にモデルチェンジを行うため買い替えが発生する。償却もできない機械貧乏状態になり出稼ぎをせざるを得なくなった。耕作地も固くなりミミズがいない土になってきた。このような状態を改善しようと有機農業を目指す人がでてきた。

土作りの基本は堆肥
進化論のチャールス・ダーウィン著「腐葉土とミミズ」に記載されているように肥沃な土地はミミズの糞によって毎年5mmほど増えていく。ミミズの体内を通った土は表土より窒素5倍、リン7倍、カリ11倍、マグネシウム3倍多い成分を作り出す。
養豚:売っている飼料の中には防腐剤と抗生物質が含まれている。病気になれば注射を打つ。屠畜場に送られる豚の65%は胃の病気にかかっている。豚の健康に一番大切なものは健康な土。豚の鼻が耕運機になって耕し尿と一緒になって黒土を作り上げる。
豚の多頭飼育の問題:豚・牛・鶏の排泄される糞尿はその臭気のため公害と騒がれている。その結果石油で燃やしてしまっている。
  米作り日米の差
日本の農業はまるで盆栽作り、可愛がって育てる。昆虫がいなくなっても交配まで人間がさせてあげる。人間が費やす時間と労力は莫大なものであった。
一方カルフォルニアでは陸稲を育てる。大農場を耕運機で耕し飛行機で種籾を撒く。除草剤は使わず、農薬を使っても日本の数分の1レベルの極わずか。カリフォルニア米は日本米よりおいし、値段も日本の自主流通米より千円/10kgも安くできている。
日本は伝統農業から脱皮しようという大胆な試みが無く生産性が一向に改善しない。
農家の明日
理想的な農家の経営の姿:5ヘクタールの土地を持って乳牛1~2頭、豚3匹、鶏や山羊数羽を飼育し家畜の餌は自給。田畑の堆厩肥も自給して地力が回復すれば病虫害に農作物ができる。結果として殺虫剤不要・・・・農民の健康を取り戻すことができる
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みなさま

連休の期間有吉佐和子さんの著「複合汚染」を読みまとめてみました。今中国ではPM2.5と農薬など環境汚染の垂れ流しで大変な状態になっています。日本でも1960年~80年台にかけて大変な苦痛の経験をしています。作者は当事者を取材して精力的にまとめたレポートがこの本です。今でも農薬汚染など食べ物が原因で切れたり、自殺したりする人が増えています。農家の人と話してもイチゴやネギなど消毒を徹底的にやらないと売り物になやないのに無農薬と表示しているのはおかしいと言っています。

ベトナム戦の除草剤散布の後遺症は孫たちの世代に影響が及んでいると一昨日の新聞に出ていました。彼女のコメントで「化学などの学者は短視眼的な問題のとらえ方が多くデータが無いと終わてしまうところがある。生物学者は捉え方が大きくその背景まで突っ込むので環境問題の解決には有効である。」としています。    福島 巖

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