ロンドン便り その15
EUは2003年1月に欧州指令として加盟国に対してエネルギーパス(住宅エネルギー証書)の制度化を発しており、加盟国は国の事情を勘案し、制度が出来次第に施行して来ました。
その中で、イギリスが2008年10月からドイツが2009年7月から施行しています。
イギリスの住宅エネルギーパス(イギリスはEPCと呼ばれている)
イギリスはEnergy Performance Certificate (EPC)と呼ばれる”住宅エネルギー証書”で、車の燃費ならず住宅の燃費を判り易く表示した住宅エネルギー証書であります。
イギリスは全ての住宅に対して、売買や賃貸時にその住宅のEPAの提示を義務付けています。不動産屋にも手持ちの売買・賃貸物件のパンフレッドにEPAの掲載が義務付けられており罰則規定もあります。イギリスのEPCの表示は下記の様にエネルギー消費の現状と改善方法とその予想費用と効果、更に省エネや創エネ機器の啓蒙まで織り込まれています。
表示内容は
①過去3年間の暖房、給湯、照明に掛かるエネルギーコストの表示。
②、①に対しての改善後の予想されるコスト削減額の表示。
③エネルギー効率の表示
エネルギー効率をポイント制でA~Gまで7段階でのランクで表示、また、改善後のランクがどの様に上がるかも表示。
④CO2排出量もポイント制でこちらもA~Gまでの’段階にランクで表示、同様に、改善後のランクがどの様に上がるかを表示。
⑤屋根または天井、壁、窓の断熱性能の改善策の提案と掛かる予想費用の表示と部位ごとの改善効果をエネルギーコスト削減額で表示。
⑥最終エネルギー消費量(kwh/㎡・a)と一次エネルギー消費量(kwh/㎡・a)も表示。
⑦太陽熱温水器、バイオマスボイラー、ヒートポンプ(日本のエコキュート相当)、小型コーゼネ(日本のエコウイル相当)等の設置を啓蒙と推奨。
イギリスは2300万戸と言われる住宅ストックの60%は築後50年以上経った古い住宅で、全CO2排出の28%を占めるそれら住宅の省エネ対策は英国にとってはCO2排出抑制策の重要な課題の一つでもあります。
その切り札の一つとして欧州指令に基づくHome Information Packs(HIP)と呼ばれる住宅情報パック制度が法制化され、その一環として2008年10月から具体的に住宅の省エネ性能を数値化して表示するEnergy Performance Certificate(EPC)– 住宅エネルギー証書制度がスタートしたのです。これは、はからずも国民に対して省エネとCO2削減の必要性の認識を一層高めたのです。
イギリスの住宅エネルギー証書の表紙
ドイツのエネルギーパスについて
ドイツでも全ての住宅に対してEnergie Ausweis (エネルギーパス)と呼ばれる住宅エネルギー証書の表示が義務化され、住宅の売買や賃貸時にその住宅のエネルギーパスの提示が必要で違反者に対する罰則規定もあります。
表示の内容
①過去3年間の最終エネルギー消費量(kwh/㎡・a)の平均を表示
②過去3年間の一次エネルギー消費量(kwh/㎡・a)の平均を表示
③過去3年間の最終エネルギー消費量(kwh/㎡・a)の実数を年別に表示
④数値に応じた7段階のランクを表示
ドイツのエネルギーパスの表紙
イギリスもドイツもエネルギーパスは現状のエネルギー使用状況の表示を目的としています。ドイツは年間のエネルギー消費を㎡当たりの(kwh/㎡・a)で表示しているに対してイギリスはエネルギー消費のコストや削減額を実際の金額での表示に重点を置いています。
これは消費者から見ると省エネは家計にも優しく判り易く省エネに取り組めると言う判断があると思われます。
新築住宅はもちろんそれぞれの国の最新の建築基準に適合させねばならず、適合させることによって、自ずからエネルギー性能も基準を満たす事になります。ちなみにイギリスは世界に先駆けて2016年以降の新築住宅はゼロカーボンハウス仕様が法的に義務付けられている事は特筆すべきことです。
日本は2009年より、改正省エネ法第86 条で、住宅事業建築主は販売する新築戸建住宅(分譲・注文住宅)について、「住宅事業建築主の判断基準」に適合する旨の表示をすることができる様になり日本版エネルギーパス(住宅省エネラベル)制度が始まりました。
しかし、日本は施行はされたが罰則規定もなく任意となっているため、「笛吹けど踊らぬ」感で、住宅業界や消費者の関心も極めて低く、日本は省エネ技術では世界のトップを走っていると言われているが、住宅のエネルギーパスに関しては、イギリスやドイツに比べて陸上のトラック競技で3周も4周も遅れて最後尾を走っている状態であります。
昨年7月にドイツの考え方をベースにした民間の日本エネルギーパス協会が設立され、民間ベースでの住宅エネルギーパスの啓蒙活動も始まっています。
住宅エネルギーパス(住宅エネルギー証書)制度への取り組みは、住宅の本質的な性能向上と省エネに資することであると共に、住宅業界活性化の切り札でもあるので、関係省庁による積極的な推進を期待したいと思います。(了)