現在の位置 : ホーム  >   コラム

技術者がバイオマスを語る-コラム

バイオマスを技術者が語る-コラム

2010/6/25 金曜日

バイオ燃料を藻類から ー 日本は積極的に推進すべし

カテゴリー: K-BETS雑感   by editor5 @ 11:53:04

 日本経済新聞―2010.5.22 第一面トップ記事
     バイオ燃料を藻類から
ー農水省、トヨタ・中大などと共同研究 
藻類で飛行機や自動車を動かすー

農林水産省は企業や大学と連携し、湖沼などに生息する藻類を原料としたバ
イオマス(生物資源)燃料の開発に乗り出す。
月内にもトヨタ自動車や中央大学などに委託する共同開発に着手、2020年を
目標にガソリンや軽油の代替燃料の実用化を目指す。
産学による新エネルギー創出の取り組みを本格させ、温暖化ガスの削減につ
なげる。
農水省が手がけるのは、「シュードコリシスチス」という藻類を育
てて内部にたまる油を取り出し、ガソリンなどに代わる燃料を精製する仕組
みづくりの研究。
10年後を目標に藻類から自動車や飛行機などに使う石油の代替エネルギー
を抽出、量産できる技術を開発する。国内で消費する軽油の1~2割を賄え
る体制を整えたい考えだ。こ
の開発にはトヨタやデンソーのほか、京都大学、バイオ
ベンチャーのマイクロアルジェコーポレーション(岐阜市)など9社・大学が参加する。
*********************************************************************
藻の研究は、日本はアメリカに遅れていると気がついた政府は、産学との連
携を財政面
からも支援すると閣議決定したようです。
ここに
K-BETSも関係持ちたいものです。
廣谷 精拝
*********************************************************************
佐野レポートから把握している状況では今まで日本の政府関係者は藻類からのバイオエネ
ルギーの可能性について無関心であったと思われます。
2020年を目標に代替燃料の実用化を目指して、取組を開始したと言う情報ですがアメリカ
政府関係、州政府の動きや関連ベンチャー企業の活発な状況からすると
雲泥の差の様に感
じられます。
その大きな原因として考えられることは、日本の土地利用に関する観点からの検討が大き
く欠落している様に思います。
日本には広大な耕作放棄地があり、今では40万ヘクタール以上、全耕作地の10%以上が
何も栽培していない放棄地となっている。
この半分の土地に藻類などの生産にあてる長期
計画を構想するならば、
パームオイルの20倍のバイオマスエネルギー生産が可能なる事業
が創出される。
この可能量の推計には、廣谷様のコラム投稿論文などにも事例が載せられていますが、
本の森林の林地残材から得られる可能性のあるエネルギー換算総量に匹敵する以上の
潜在
可能性があります。
不足しているのは、その潜在可能性に目を向ける技術開発への取組体制でしょう。
日本の農水省は、2002年にバイオマスニッポン総合戦略を立案して、エネルギー化の可能
なバイオマス賦存量を推定したが、これには、藻類に関する可能性は全く
触れていない。
それを改訂して強化した2007年でも、藻類に対する取組姿勢は全くゼロに近かった。
それがやっと、ここにきて、共同研究に支援をすることになったという段階であるから、
メリカに遅れる事は数周の開きがある様に思います。
また、日本は海洋国家であるにも拘わらず、日本沿岸の恵まれた内浦を利用しての、海藻栽
培、養殖技術の土台があるのに、少しも研究体制を強化することをしないで、
単純に漁業地
帯の過疎対策程度の支援しかしていない。
一方、中国では、沿岸部に1400kmに達する人工の藻場(海藻の養殖地帯)を造り、既に航
空機燃料用への利用事業の検討に着手している。
日本はアメリカの様に、大きな陸地を持っているわけでもないので、必然的に将来の課題とし
ては、海面を利用する方向に行かざるを得ない。
それには、海水でも養殖出来る海藻の研究と人工栽培、それのバイオ燃料化への、生産性の優
れた技術開発が、もっとも必要になる方向である。
 着手
の順番としては、淡水の藻類から研究する方向もあるが、海藻の養殖業はすでに、地場の
産業として実績があるから、それを近代化したり拡大していけば、
2020年を待たずにして、バ
イオマスエネルギー産業に育てることは可能性があります。
大きな課題は、日本の政府関係者と地域の産業育成に関して、藻類のバイオエネルギー産業を
育てる意識が、ほとんど欠落している現状を変えていくことにあると思います。
        渡邊 雅樹
  

  

2010/6/22 火曜日

植物はなぜ5000年も生きるのか鈴木英治 講談社

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 17:35:18

  - 寿命からみた動物と植物のちがい -

 著者は鹿児島大学理学部地球環境科学科教授(理博)で植物生態学の研究者です。
縄文杉の樹齢は7200年といわれていましたが、最近の放射性炭素による測定では約3000年くらいだそうです。
それでも生物の寿命としてはたいへんなものでしょう。
世界で確認されている最長樹齢は、アメリカネバダ州で発見されたイガゴヨウマツで、切り株の年輪は4844あったので、そのまま生長させておけば5000年にはなったものと見られます。
 
動物ではとてもこうはいきません。人間では最近寿命が延びたといっても、100年を超えることは稀です。哺乳類ではナガスクジラが116歳、動物としてはゾウガメが200歳くらいのようです。ツルになるとせいぜい80年といいますから、伝説とはかなり違います。
 植物も動物もすべて、約38億年前に誕生した生命の祖先から生まれてきたものと考えられていますが、その寿命の違いは、生命体を構成する基本となる細胞の性質と、生物が進化しながら先祖の性質を伝えてきた遺伝子がカギになっています。
 生物体の特徴の一つは有機物でできていることですが、もっとも基本的な特徴は自己複製能力にあります。自分の複製をつくる方法は、植物も動物もバクテリアまでさまざまな生物の間で驚くほど共通しています。
そのメカニズムはかなり明らかになってきました。
 一方、死についてははじめからあったわけではなく、生物進化の過程で生まれてきたのだそうです。最初の単細胞生物では、自分と同じ細胞を次々に複製してゆきました。みな同じ遺伝子を持っているので、分裂した細胞集団はすべてが自分自身ですから、死ぬことはありません。ところが生物は、ほとんどの種が有性生殖を採用するようになりました。有性生殖の結果できた細胞は、自分の遺伝子を半分持っていますが、あとの半分は他の個体からきたものです。つまり自分自身が消えて、新しい生命が生まれるというわけです。そのためにもとの個体は死ぬということになりました。 ではなぜそれほどまでして有性生殖を採用したかについて、著者はこれをピンチに立った会社が他社と合併して生き延びるようなものだといいます。遺伝子は使っているうちにどこかが壊れてくるので、それを修復するために別な個体と遺伝子を交換しているというのです。他の個体でもどこかが壊れてはいますが、その場所はまず一致しないからです。 では長生きは生物の理想なのでしょうか。生物にとって本当に重要なことは、自分のDNAを伝え広めてゆくことです。「利己的な遺伝子」を書いたイギリスのR・ドーキンスは「生物の個体はDNAの乗り物」といいました。そうすると個体が長生きするかしないかは、大きな問題ではありません。新しいクルマに次々乗り換えるか、同じクルマを長く使ったほうがよいかは、簡単には決められないことです。環境変化に適応するために世代交代を早くするか。コストをかけても体制を強化し、防御を固めて生き延びるかによって、進化の道筋がわかれてきたのです。 動物と植物の違いは、動物は動き、植物は動かないということですが、その相違は細胞の性質にあります。動物には細胞壁がなくて動きやすいのですが、身体が柔らかいので骨格で支えています。植物は硬い細胞壁でしっかりと覆われているので、動くことができません。一つ一つの細胞が、硬い細胞膜でブロックの壁のように組み立てられています。 哺乳類では、それぞれの組織が専用の分裂組織をもってどんどん成長します。ただ心臓の筋肉や神経の細胞は赤ん坊の時からもう分裂しません。もとの細胞を使い続けるのです。 また動物の体細胞には分裂の限界があることがわかってきました。分裂するたびに染色体が次第に短くなってゆきます。修復するにしてもコストがかかるので、そのまま老化してついには死ぬことになるのです。環境への適応度を高めるために、積極的に世代交代を進める、いわゆるプログラムされた死だろうという説もあります。 植物では種子が発芽すると、茎の先端と根の先だけが分裂成長します。また樹木の場合は幹や根のすぐ内側に、肥大するための新しい細胞が形成されます。これが年輪になるのです。古い細胞は死んでしまいますが、硬い細胞膜はそのまま残って構造体になります。    また組織が単純で花や葉のように同じ器官がたくさんあるので、傷ついても再生が容易にできるのです。老化することなく無現に分裂を続けてゆきます。植物では一年生草木や、繁殖して枯死する竹などを除けば、加齢によっても繁殖能力は衰退しません。健康な樹木であれば若い樹と同じように開花結実します。 木の寿命を種子の段階からみると、非常に長い間休眠するものがあります。1万年前のカナダのマメ科の種子は実際に発芽しました。おおまかにみると発芽してからの寿命の長い植物は種子の寿命が短く、発芽後の寿命が短い種子は長生きするそうです。休眠中の種子は、生育に都合の良い時期に発芽しようと待ち構えているのです。 樹木では針葉樹のほうが広葉樹より長寿です。広葉樹は年輪がわかりにくいのですが、ケヤキで1400年生きた例が放射性炭素の測定で確認されました。しかし針葉樹にはかないません。比重としては広葉樹のほうに重いカシ類がありますが、腐って倒れることが多いのです。法隆寺のヒノキは樹齢2000年ですが、1300年たった今でもビクともしません。 針葉樹の材は軽いのに腐り難いのです。その秘密はリグニンが多いことにあるのです。リグニンは広葉樹にもありますが、針葉樹のほうに多く含まれ、しかもなぜか腐り難い性質があります。樹木は硬い細胞壁に支えられており、鉄筋コンクリートの建物に例えると、セルローズが鉄筋、リグニンがコンクリート、ヘミセルローズは鉄筋とコンクリートをしっかり付着させる針金に相当するといいます。またスギやヒノキには樹脂が多く含まれて、虫からの食害を防いでいることも、長寿の大きな要素になっています。広葉樹でもクスノキが、樟脳の防虫効果で長生きしています。しかし寿命にはやはり限界があるのです。  植物は針葉樹のような裸子植物から、広葉樹のような被子植物に進化してゆきました。しかしその進化は、寿命よりも生長を早める方向にあって、中世代の地球の大変動に適応して子孫をのこしてゆくためではないかといわれています。

         2010621日  要約 吉澤有介

  

2010/6/13 日曜日

月の魔力  A.Lリバー  藤原正彦・美子訳    東京書籍

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 12:32:25

この本は世界の各国でベストセラーになって広く読まれたものです。
木を切る時期と月が関係しているとの説があったのでこの本を更に
読んでみました。
日本語訳は藤原先生御夫妻が担当しています。
先生は訳すだけでなく出産のデーターを集めて理論の正しさを証明
しました。

 月のリズム
5億年前生命は海から陸地に進出した。このきっかけは月が潮を
移動させたため浅瀬にあった生物が周期的に太陽と大気にさらさ
れるようになった。
このリズムが遺伝子に組み込まれ生命活動の中で機能しています。

魚の産卵やウナギの産卵場への移動は満月の時に行われる。
魚の食餌時刻リズムは月暦に従うので太陽暦に従うと毎日時間が
ずれて行くことになる。

満月のときに起きる生物の行動
精神病院などでは患者のおかしな行動が目立つ。魚や動物の身体
行動、代謝活動、攻撃性、性行動などが活発になる。

バイオタイド(biotide)理論
作者が提唱する理論。我々の身体は陸地と同じ成分構成で水分80
%
、他20%は個体である。海水や陸地が月の引力の影響を受けると
同様体内の水分もその影響を受けるというのが理論の中心。
水は体内の管内液(血管)、細胞外液、細胞内液の3ケ所に分か
れて存在する。
体内の水が増えると組織が緊張し膨張する、神経が興奮する。

月は引力だけでなく地球の電磁場を変化させる。
その影響が神経系統に強く及ぶため様々な精神活動が変化する。

天体のサイクルにより生体のリズムが決まる(ブラウン博士)
満月、新月のとき出産が多い。
月経サイクル=月齢サイクル(29.5日=月暦1ケ月)。
妊娠期間=29.5X9(265.8)日(月暦の9ケ月)。
太陽黒点は11年周期。
これに同調するもの:生物の総数の増減
(海藻、サンゴ、魚、昆虫など)

伝染病(ペスト、コレラ、インフルエンザ等)の流行周期 
太陽表面の爆発が磁気嵐になって地球の磁場を変化させて心臓病
の発生率を高くしている。(ロシア、デュプロフ博士の研究)

生物の進化と月
生物は海から陸上に上がった。その際潮のリズム:一週間周期で
動物の生命機能は働き続ける。動物の進化の初期に太陽や月によ
る地球物理学的リズムの上に生体機能が次々形作られていった。
我々の生活のリズムは10日単位でなく7日である。

地球物理学的リズムの例:
(1)海水の満潮と干潮
(2)陸地も水のように容易ではないが15cmの上昇があり地殻
を引っ張る力は地震の引き金になることがある。

磁場と動物の情報伝達
磁場を通じて天体現象が水の物理的性質に影響を与えている。
人間の体内水分にも同様な影響がある。細胞膜を通過する水分速
度、血圧、心臓の脈拍動が変ってくる。神経の伝達機能にもその
影響が及ぶ。

動物同志の情報交換はこの電磁波を通して行われている。
魚や鳥、昆虫など群れをなしたものが同時に同じ行動をする。
これらが生まれた場所に長い回泳や飛行の後正確に戻ってくるこ
とから分かるように磁場の微妙な変化を感知(生物コンパス)す
る能力を持っている。

人間は宇宙と力学的平衡を保っている
体内は神経インパルスに従って動く細胞群から成っている。インパ
ルスが神経繊維の中を走ると電磁場が生じる。これが引き金となっ
て化学物質を放出し筋肉や血管などを目指す細胞に伝える。
ドーパミン、セロトニンといった神経伝達物質はめざす細胞を興奮
させたり抑制したりする。       

   記  福島 巖

  

2010/5/11 火曜日

里地里山文化論 養父志乃夫 著 (社)農山漁村文化協会

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 19:58:47

著者は1957年大阪市生まれ和歌山大学教授(自然生態環境工学)です。

まず里地里山の定義を
「水と空気、土、カヤ場や雑木林から屋敷、納屋、牛馬小屋、畑、果樹園、
竹林、植林、溜池、小川、水田、土手、畦など一連の環境要素が一つながり
になった暮らしの場」
とし、さらに海岸や湖沼の近くでは、里海、里湖を加えている。

この暮らしの場はヒトだけでなく多様な動植物の生態系まで含んでいる。
 里山という用語は、一般に京大の四手井綱英教授の造語とされているが、
江戸時代の尾張藩の文書にすでに出ているという。
なぜこの里地里山が大切なのか、これは植生としてだけではなく、日本人の
在り方に深く関わっていることを、その発祥の時代まで遡って概観している。
1318万年前のリス氷期には中国大陸と日本列島は直接つながっていた。
さらに約712千年前のウルム最終氷期には、間宮海峡も津軽海峡も大陸
と地続きだったから、動植物もヒトも列島に移動できて、今日の生態系の骨
格が形成された。この最終氷期には本州の大半はまだ落葉広葉樹林で、照葉
樹林帯は九州沿岸部にある程度だったがその後の縄文海進とともに北上した。
列島は大陸から分離し、約6000年前の縄文中期には現在よりも平均気温は
23℃も高かった。
照葉樹林は増えたものの、関東や東北では暖帯性落葉広葉樹が広がっていた
ので、その木の実が豊かでこの時代の人口の増加を支えた。
おおよそ26万人いたと推定されている。世帯数で約4万戸はあったから、燃
料や焼畑耕作などで、かなりの立木を伐採したとみられる。
このころから二次林が形成されたらしい。
陽光の必要なカタクリなどの春植物が生き延びたことはその証だという。
縄文里山の誕生である。
しかし縄文晩期の約3000年前には、気候が寒冷化
して植生が変わり、木の実がとれず総人口は8万人弱に減った。
一方大陸でも気候不順に「春秋戦国の乱」の難民も加わって、この時代に
おもに長江中流から、おおくの人々が稲作や各種の作物とともにボートピ
ープルとして日本に渡来した。
朝鮮半島経由もあって、奈良時代初期までの1千年間に150万人が渡来した
とみられ、ここに稲作を基礎とする弥生式文化が形成された。
当時の稲作はすでにかなり完成後が高く、生産性は反当たり3400kgも
あったから、畑作技術を持ちながら寒冷化に苦しんでいた縄文人に素直に
受け入れられて、弥生文化は次第に北上した。
この小区画水田による弥生式農法は、我が国の水田耕作の原型となり、
その基本は昭和30年代まで続くことになる。
水田は灌漑用水路を通じて、1年をサイクルとする淡水魚などの生物相を
豊かにし、稲作民の栄養を支えた。
稲作文化の起源は長江中流とみられ、
日本文化の形成には雲南起源の照葉樹林文化より強い影響をもたらした。
自然環境と巧みに付き合って生態系を育む暮らしが、現代まで続いてき
たその原型は長江中流にあったことを、現地を調査した著者は確信した
という。水田を取り巻く動植物が、日本の里地里山に酷似していたので
ある。これらはヒトの移動とともに史前帰化していった。
著者はさらに青島から遼東半島、朝鮮半島にかけて綿密な調査を行い、
里山の暮らし動植物などすべてがほとんど共通していることを確認して
いる。
水田稲作の導入と拡大は、自然環境と共存しながら循環型社会の
基礎を作り上げていった。
水田面積は平安時代には100万ヘクタール(a)を越え、米の生産量は
100万トンに達した。
明治の初期には面積は250万ha、米は470万トンにもなっている。
この間の人口も450万人から約3000万人に増えた。
水田の肥料には弥生時代から近年まで、草を刈り敷くやり方が中心であ
った。そのため水田面積の10倍の草刈り場が必要とされたという。
寺社建立のための森林伐採も進んだから、過伐は常に大きな問題となって
いた。そこで里山からの落ち葉に家畜やヒトの糞尿などの有機肥料などの
活用が工夫されて、昭和35年頃までその循環型農業が続いたのである。
人口の増加は燃料の需要を拡大した。農家1戸当たりの薪炭消費量は年
34トンであり、そのために必要な里山は11.2aと推定されるとい
う。著者らは全国18か所の農家でヒアリングしてそのデータをとって確か
めている。
このような自然循環での暮らしも、昭和25年に人口が8000万人
を越えたあたりで、すべての衣食住を賄うことが困難になった。
里地里山の環境に負荷をかけすぎると、また収奪が限度を超えると、災害
や凶作で生命、生活が犠牲になる。
古人はその戒めに山の神、田の神を崇拝し、大切にしてきた。
これらの教訓が、人々に生きてゆくための知恵と技を継承させてきたので
ある。

里地里山に共存する生態系や動植物、水、土など、自然環境を構成する
要素には、無用物は何もない。
持続的な循環型社会を見直す上では宝の山である。
そこに暮らす里人は、次代に里地里山文化を伝え、命、仲間、労働の大切
さを教える先生でもあった。
昭和30年から40年代にかけての里山の変貌について、著者は実に丹念に
実地調査を行い、野生動植物の生態やヒトの営みについてのデータを収集
している。
著者はそれらのデータをもとに、伝統的技術による里地里山の修復と生
態系の再生についての実験を開始した。
その範囲は北海道の札幌市の放棄水田、放棄林の修復から始まって、和歌
山、福井、新潟、埼玉、兵庫、広島にわたっている。
水田のあぜの修復、間伐や芝刈り、落ち葉掻きなどの手間は相当のもので
はあったが、生態系は着実に回復したことを検証した。
ヒトと動植物が育んだ循環型里地里山文化は、持続的ライフスタイルを再
構築する上での大きなヒントを与えてくれた。これからどのように暮らし、
どのように子孫に継承してゆくのか、ここでいま一度、昭和30年代までの
循環型の里地里山文化を見直し、現代的な視点から応用できる技を生み出
す時期にきている。
里地里山は単なる懐かしさから、これからの自然と人間との関係を探るた
めの指標に変わったのである。
                 要約 吉澤有介

  

2010/4/12 月曜日

動的平衡 -生命はなぜそこに宿るのかー  福岡伸一  木楽舎

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 21:18:38

動的な平衡
身体のあらゆる組織や細胞の中身は常に作り変えられ更新され続けている。
生きているというのはこのことで「動的な平衡状態にあるシステム」である。

このネットワークの一部を他の部品と入れ替えたり局所的な加速を行ったり
することは効率を高めるかに見えても結局は平衡系に付加を与え、流れを乱
すことになる。

遺伝子組み換え技術は期待されたほど農産物の増収にならず、臓器移植は延
命医療になっていない。

生きていること
「動的な平衡」によって「エントロピー増大の法則」と折り合いをつけるこ
とである。
機械的な動きは直線的であるが生物は非線系で渦巻きの意匠にシンボライズ
される。
生命と自然の循環性の上に成り立っている。

ミトコンドリアとは
細胞の中にあるミトコンドリアの役割は酸化によってエネルギーを産出する
ことである。1つの細胞の中に数千ケを内蔵している。
常に活性酸素にさらされているので老化と関係がある。

ミトコンドリアは細胞に寄生する別の生命体である(この体内にはDNAを
もっている)。太古では自立的な細菌であったが大型細胞に捕らえられて共
生関係を構築した。

酸化能力でエネルギーを作って宿主に供給し、宿主は体内に留め栄養を与え
ている。

ミトコンドリアのミステリー
ミトコンドリアから母系をたどることができる。卵子と精子が合体するとき
精子からはDNAだけが卵子に入りミトコンドリアは入れない。

そのため子供のミトコンドリアは母系由来のものだけになる。
今の人類の調査をした結果アフリカに共通な太母がいて約16万年前に世界
に広がっていったことが定説になっている。

葉緑体も別の生物
植物の光合成を行っている葉緑体も細胞内に共生する別の生命体であること
が明らかになっている。

モンサント社の強欲なビジネス
強力な除草剤「ラウンドアップ」を販売しこれに耐性を持つ遺伝子処理した
大豆を売り出した。しかも一代限り(不稔性)の種である。
EUや日本で反対運動が起き世界戦略は失敗した。
生産者よりの戦略ではうまく行かないことが判明し、消費者サイドに立つビ
タミン強化の米とか未成熟トマトとか始めたが戦略的に成功とまでは行って
いない。

バイオテクノロジーは生物に不自然な負荷を与えるので生物は平衡を取り戻
そうとする「ストレス応答反応」を起こす。

        記    福島 巖

  

2010/3/29 月曜日

木とつきあう智恵   エルヴィン・トーマ    地湧社

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 15:25:32

著者はオーストリアザルツブルグ生まれ。
チロル地方の営林署に勤務のあと独立して木材加工会社を経営している。
西欧の木材産業の一端がうかがえて参考になる本である。

 

月と森と木の秘密
チロル地方には古くから
「冬の新月の時期に切った木は良質で長持ちする」
という伝えがある。
彼はこのことが事実であることを実験や偶然のできごとを通して証明する。

そのうえ森林局に働きかけ「新月の木」を良質木材の国家証明として明示
することにした。

 

木枯し
伐採した木の乾燥方法に関して。
木を切ったあと枝を付けたまま梢を下に向けて3ケ月ほど放置しておくと
良く乾燥して含水率が40~50%下がる。

枝を付けた幹はもう一度実を付けて種を残そうという生存本能に目覚める。
その結果枝に幹から水分を吸い上げ、葉から蒸発するため幹は軽くなる。
梢を下にするのも樹液を重力によって下げるためである。

 

ふさわしい場所で成熟した木
高地で生まれゆっくり成長したものが絹の肌を持つ最高級の銘木になる。
天然林は落葉樹やモミ、カラマツ、シモフリマツなどの混合林を作っている。
現在のように高度千メートル以下の場所にドイツトウヒの単一人工林が作ら
れているのは異状である。
腐葉土の成分が偏って酸度が強くなる、害虫や菌類がはびこる、嵐や積雪に
対する抵抗力を弱めるといった害を伴うことになる。

 

伐採時期
12月末から1月初旬の新月や下弦の月の頃がベスト。
月の引力がどのような作用を木に与えているのか不明であるが、木材の耐久
性が向上する上、カビなどの菌類や虫に対する抵抗力が強くなる。
楽器(バイオリン、チェロ、ギターやオオボエなど)の製作には薄くて、反
りが無く、自由に振動してよく響く最度の品質が要求される。
製作者は山に行って木を選び、新月の時期に切って充分な時間をかけて乾燥
する。
これが短いと音に落ち着きが無くオーボエなどにはひびが入ってしまう。
(注:月の引力は様々な形で生物に影響を与えているようです。ALリバー
博士のBiological Tides Theory:バイオタイド理論が参考になります)

 

オーストリアのピュアーウッド住宅
正常に育った木材を正しい時期に伐採し、貯蔵、乾燥、加工を適切に行って
家を作る。
化学物質や補助金具など一切使わずに木材だけで仕上げた暖かい、住み心地
の良い家が人気を得ている。木の香りがコクゾウムシなどの虫を遠ざける。
作者はこの住宅会社を経営して木造建築の良さを世界にアピールしている。

         記  福島 巖

  

2010/3/11 木曜日

スノーボールアース仮説(地球の全球凍結) 藤田良廣

カテゴリー: 要約情報   by editor5 @ 0:06:36

1.はじめに   
私は、NPO法人蔵前バイオマスエネルギー技術サポートネットワークに所
属しています。地球温暖化の原因である化石燃料の過大な使用を阻止するた
めにバイオマスエネルギーを活用する方策について様々な検討を行っていま
す。
実は私が中心となって単細胞藻類を培養してバイオマスエネルギーとして活用
することを考えたのですが現在まだ安定して単細胞藻類(SCB)を培養する
方法が確立されていないので壁に突き当って立ち往生しています。

今回は温暖化の逆である地球の全球凍結の話が中心です。
 地球温暖化が今日の地球の最大の問題であり、その為には二酸化炭素(CO
2)を極力減らさなければならないというのが世界的な流れとなっています。
46億年の地球の歴史を振り返ってみると40億年前の地球の大気には酸素
が殆ど含まれていなかったと考えられています。
22億年前頃に酸素濃度が急激に増加したと考えられています。
その原因はシアノバクテリアによるという考えが主流です。
25億年前から5.42億年前の原生代は地質学的証拠も多く、現在も研究が進
んでいるがこの時代の初めと終わりに全球凍結(スノーボールアース)が生
じたと考えられています。

 2.スノーボールアース 
    かつては全球凍結はあり得ないと考えられていました。一旦凍結す
れば元には戻れないと言うのがその主な理由であったようです。
しかし1992年にカリフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビング教
授は、スノーボールアース仮説を提唱しました。
全球凍結からの脱出も大気中のCO20.12気圧程度まで増加すれば可能で
あることが明らかになりました。
 本格的にスノーボールアースについて知りたい方は下記の本を読まれるこ
とをお勧めします。
 ◯田近英一「凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語」新潮社
現在明らかになっているスノーボールアイスは、原生代前期の「マクガニ
ン氷河時代」 (23億~22.2億年前)と原生代後期の「スターチアン氷河時
代」(7.3~7億年前)及び「マリノアン氷河時代」(6.5~6.35億年前)で
あると言われています。
 22億年前のマクガニン氷河時代についてはまだ不明確な点が多いのですが
原生代末期の二つの氷河期の凍結に関しては現在の地球上の温暖化―寒冷化
のサイクルが寒冷化に大きく振れたとすれば全球凍結の可能性も考えられま
す。氷河の進展を負のフィードバック作用と正のフィードバック作用とを考
えてみます。
負のフィードバックはシステムの暴走的な挙動を抑制する機能です。
地球の環境が安定なのはこの負のフィードバックの効果(ウォーカ
ー・フィードバック)によると言われています。
例えば火山の噴火により多量のCO2が排出されても地上の珪酸塩鉱物の
風化が作用して急激な大気の炭素増加には繋がらないのです。
 逆に氷河が広がってきた場合には氷は光の殆どを反射して吸収される
エネルギーは少なくなります。
これは正のフィードバックであり氷河の生成をどんどん進める側に作用
します。
氷河がある程度以上に進行すると正のフィードバックが進んで全球凍結
の状態になります。
 

3.スノーボールアースからの回復
   いったん全球凍結になると、大気と海は完全に遮断され大気中の
炭素は海へは供給されない状態となります。従って大気中のCO2濃度
はどんどん上昇の経過をたどることになります。
 前にも述べたように、CO2の圧力が0.12気圧を超えると温暖化
現象により氷が溶けだしスノーボールアースは解除されます。
スノーボールアースの状態の大気温度が約-40℃であったのが、一
転して上昇し最高60℃まで上昇すると予想されています。
最大100℃の温度変化が生じる事態です。
単細胞生物であればこの様な温度の変動に充分耐えられることは分か
っていますが、体の組織が複雑化した多細胞の生物がこれに耐えられ
るはずがないであろうと考えられる。
 スノーボールアースの状態から大気中のCO2濃度が0.12気圧にな
るまではおよそ400万年程度と言われています。
氷が溶け出す時間はおそらく数百年か数千年程度で全ての氷が溶け
てしまうと考えられる。
これは通常の気候変動ではなく明らかに気候ジャンプと呼ぶべき異
常事態の発生です。
最後のスノーボールアースの時には、真核生物である緑藻、紅藻、
褐藻などの藻類の仲間が出現しておりこの大氷河時代を生き抜い
たことがわかっています。
しかし、この様な過酷な状況を如何にして真核生物が生き抜いた
かに付いてはまだよく分かっていません。
化石として残る骨格などがないこれら藻類の生存証拠はなかなか
残存しづらく確証が得られません。
 スノーボールアースの最盛時の海の氷の厚さは1000mと言われ
ていますが一部にはもっと薄い氷が存在した可能性が指摘されて
います。
現在の南極大陸には多くの湖が存在していますがドライバレー
と呼ばれる大変乾燥した地域に見られる湖の氷は予想より遙か
に薄いそうです。
理論的に予想される300mに対して実際は5mしかないそうです。
しかもこの氷の透明度は非常に高く太陽光が湖底まで達して氷
の下で光合成生物が活動しています。原生代末にも同じ様な状
況が生じたとすると、この様な場所に藻類が生育してその子孫
が現在の各種植物の先祖となることは充分に考えられます。
 しかし、―40℃から60℃の世界という極端な条件を生き
ぬいた生物はわずかであり多くの生物種は絶滅をしたと考えら
れる。
化石では確認できない大量絶滅が存在したことは明らかであろ
う。
 これらについての地質学的な様々な進展は、地球の進化の究
明として近年多くの進歩が発表されている。

 4.生物の大進化
   カーシュービンク博士は最初のスノーボールアースの原
因はシアノバクテリアであるという説を唱えている。当時の温
暖化ガスの主役はメタンガスでありシアノバクテリアの活動が
盛んになるとメタンは新しく生成された酸素により酸化されて
温暖化ガスの機能を無くしてしまう。
これ以降は生物による酸素の製造が継続して続くことになりメ
タンは地球温暖化の役割を二酸化炭素に譲り渡すことになる。
しかし地球上の生物の大進化の端緒はシアノバクテリアの活躍
であることは明らかである。

 最後のスノーボールアース・イベントであるマリノアン氷河
時代(6.65~6.35億年前)の直ぐ後の5.8億年前に
エデイアカ
ラ化石生物群の大発生が起こります。この動物群はそのまま後
に繋がるものは無かったもののその後の生物に繋がる基本の形
は殆ど揃っておりこの時期で進化の方向はほぼ出来上がってい
たと考えられている。
 エデイアカラに引き続くカンブリア紀の動物は、今に繋がる
として理解される生物群となって今に繋がっています。化石の
存在で確認される生物の進化の時代はこの辺りから始まるとも
いえるようです。
 大気中の酸素濃度が、約22億年前に急激に増加した後約6億
年前にも急激に増加したことが以前から認識されていたがこ
の酸素の増加が生物の大進化に繋がるのではないかとの考えが
浮かび上がってきている。
地球の環境は今までは自然が(神が)決めていたモノであっ
たが、今は人間の行為が環境を決める時代になろうとしていま
す。我々人間は謙虚に自己の力を見つめて対応を考えるべき時
に直面しているのだと認識しなくてはならないでしょう。

  

2010/3/10 水曜日

 「強い者は生き残れない」    吉村仁著  新潮選書

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 22:44:33

環境から考える新しい進化論
著者はかって「素数ゼミの謎」(文芸春秋)で新しい進化論を展開した数理
生物学者です。
その環境不確定性進化理論は、現在欧米の進化論学界で大きな注目を集めてい
るそうです。
本書では、環境変動が生物の進化に対してどのように関わってきたかについ
て、多くの事例について検証し、創造的な発想で自由奔放に論旨を展開してい
ます。最近の進化論を学ぶ好著として一読をお勧めします。
人間も生物なのです。地球の生物は40億年前に発生して以来、環境の変化と
ともに「進化と絶滅」を繰り返してきました。
人類も決して例外ではありません。その端的な例が企業の経済活動でしょう。
環境の変化に対応して、生き残るとはどういうことなのか。
本書では、現代の進化論=総合学説の「適応度の高い者、すなわち強い者が生
き残る」に対して、さまざまな生物の長い歴史から、現在生きている生物は決
して「強い者」ではないこと、環境変化に適応して「他者と共生・共存する」
者が生き残ったと述べています。
ダーウィンは個体の変異に注目して、より環境に適応した個体が生き残ると
いう「自然選択」理論を提唱しました。しかしここでは環境という概念がまだ
明確でなかったために、環境変化への適応は軽視され、適応度だけが問題とさ
れてきたのだそうです。環境変化は例外とみられてきました。また「自然選択
」では、自分に不利になるのに「利他行動」することの説明がどうしてもつか
なかったのです。
それらの問題については、近代に入ると「ゲームの理論」が盛んに応用され
るようになりました。ゲームの理論は、囚人のジレンマなどで皆さんもよくご
存じでしょう。
ここで進化的安定戦略の概念が生まれて、進化における最適の行動パターンが
浮き彫りになってきました。ハチやシロアリなどの行動も説明できるそうです。
すべての生物は環境変化に必死に対応します。
最適化するよりも保険をかけたり、リスクを分散させたりする戦略をとりまし
た。一夫一婦のはずのトリのつがいでも、メスがこっそり浮気して、別のオス
の卵を産んでDNAを分散させているのだそうです。
厳しい環境変化があったときは、単独でいるよりはさまざまな仲間と一緒の
ほうが有利になります。多細胞生物から植物群落、熱帯雨林などもそうです。
協力しあって生き残る共生の進化史が続いているのです。
カンブリア大爆発も5大絶滅も、生き残った生物はこの共生とお互いの協力がカ
ギでした。同時にまた生物は一人勝ちを防ぐシステムをつくり出しています。
単なる強者が勝つのではない、実に巧妙な戦略をとってきたのです。
人間社会では、この存続のためのルールよりも利益の最大化をめざしたため
に、破綻と絶滅を繰り返しています。経済学はなぜ間違ったのでしょうか。
それは富の有限性を無視したからなのです。生物はつねに資源の有限性のもとに
行動してきました。コリン・W・クラークは新しく生物資源経済学を提唱していま
す。これは良い示唆になることでしょう。
         記 吉澤有介

  

「イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか」 渡辺一夫著 築地書館

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 22:30:35

樹木の個性と生き残り戦略
 著者は東京農工大大学院卒の農学博士で、森林インストラクターとして活動してい
す。
主に関東近郊の山を歩き、山や川をつくる大地の力やと樹木のしたたかな生き方

に興味を持ってきました。著書に「森林観察ガイド」(築地書館)などがあります。
その森林エキスパートが、日本を代表する樹木36種についてそれぞれの個性と多様な
生き残り戦略を、樹木の立場からみて解説した異色の本格的ガイドです。 
一読して日ごろ親しんでいた身近な樹木たちが、こんな苦労をしてこんなに素晴らし
い戦略を編み出したのかと驚くばかりでした。森林の成り立ちを考える参考書として
お勧めします。
樹木も人間と同じように、一生のうちにいろいろなことがあります。台風も来れば虫
にも食われ、なおかつライバルとの厳しい競争を勝ち抜いて子孫を残してゆかなけれ
ばなりませんが、それぞれの生き方は実に個性的なのです。その二三の例を挙げてみ
ましょう。


「アラカシ」は、たとえ急峻な崖であってもしがみつくように根を張って育つ、生命
力の強い樹木です。種子のドングリは毎年たくさんできて、縄文人も好んで食糧にし
ていました。67年に佐賀県の坂の下遺跡から出土したドングリは何と4000年の眠りか
ら覚めて、いま佐賀県立博物館の庭ですくすくと育っているそうです。アラカシは最
終氷期から暖かくなってきたときに分布を拡大してきた常葉樹ですが、縄文人たちが
焼畑などでその生育を妨げてきたという受難の歴史があります。そこで乾燥に強いア
ラカシは急な崖や石灰岩地などの、ほかの樹木の来ない場所に住みついてきました。
そこは人の手も入り難かった利点もあったのです。いまは里山の落葉樹が放置されて
いるので、これまで苦労してじっと待っていたアラカシに、分布拡大の絶好のチャン
スがきているそうです。

「ムクノキ」はどこにでもある落葉樹ですが、暖かい場所が好きです。しかしそこは
常緑樹が優勢なエリアなのです。日陰に弱いムクノキがそこで生きてゆくために、撹
乱を利用する戦略をとりました。森の中ではなく、河原のような裸地を狙って先駆す
るのです。そこは数十年に一度の洪水が来ますが、そのあとはしばらく安泰です。鳥
が運んだ種子はそこで素早く発芽して生長します。やがてタブノキなどの常緑樹が侵
入してきますが、またその頃に大洪水がきて新しい裸地ができるので、ムクノキにま
たチャンスが来るというわけです。落葉樹は一年のうち半分しか光合成ができないの
で、短期間に高い生産性を挙げる必要があります。そのため耐久性や虫よけまで犠牲
にして、葉を薄くしてコストを削っています。したがって日陰に弱く、暗い常緑樹の
森の中ではなかなか辛いのです。しかし森のなかでも少数ながら安定して生きている
こともあります。鳥に運ばれたムクノキの種子は、暗い森のなかの土中で休眠し、や
がて頭上の樹木が倒れて明るいギャップができると、すかさず生長してその場所を占
有するのです。しかも長寿ですから安定して子孫を増やすことができます。ムクノキ
の多角的戦略は実に見事といってよいでしょう。

 「イタヤカエデ」はあまり大きくならずに亜高木として生きています。ブナやミズナ
ラの日陰になるので、水平に枝を出してすべての葉で光を受けます。その葉も一斉に
つけてできるだけ長持ちさせ、弱い光を利用して光合成を行うのです。葉の構造もム
ダを省くために薄くし、製造コストと維持コストを低く抑えています。日陰に生きる
イタヤカエデにとって、コスト削減は生命線なのです。

林内で発芽しても、そこがあまりにも暗いときにはいつまでも大きくなれません。と
きには十年も稚樹のままということもあります。さらに光合成のエネルギーが枝葉を
維持するエネルギーに足りない時、つまり収支が赤字になったとき、イタヤカエデは
ここで大胆なリストラを実行します。思い切って地上の部分をいったん枯らしてしま
うのです。根だけは生きていますから、機会が来れば身軽になってまた新しく発芽し
て生きるのだそうです。またイタヤカエデは春先のほかの落葉樹が葉を出さないうち
に、一斉に葉を広げて春先の二カ月だけで集中して光合成を行います。とにかく必死
に知恵を働かせているのですね。
そのほかトチノキのように、ハナバチやリスとうまく付き合って子孫を増やしたり、
ブナのように深い雪を味方につけて北国で一人勝ちしていること、針葉樹についても
それぞれの個性があるなど、興味の尽きない豊富な話題をつぎつぎに提供してくれま
す。ぜひ一度ご覧になってみてください。
         記  吉澤 有介

  

「CO2と温暖化の正体」 S・ブロッカー著 河出書房新社

カテゴリー: 本を読んで   by editor5 @ 22:18:11

何やら怪しげな表題ですが、原書ではFIXING CLIMATEで、ごくまじめな科学物
語です。もとの意味からすると「気候の修復」ということなのでしょうか。
本書は現代最高の気候学者の一人である、米コロンビア大学のウオレス・
S・ブ
ロッカー教授(
78歳)の半世紀にわたる気候学研究を、気鋭のライターのR・ク
ンジグが一般向けに記述したもので、
550ページの大著です。
ブロッカーの気候学における大きな功績は、気候というものがいかに不安定なも
のかを証明し、そのトリガーとして海洋循環が大きいと示したことです。
気候には氷期~間氷期という二つの安定したモードがありますが、それが突然急
激に変化することが起こりうるのだそうです。
そこには海洋が大きく関係しています。
その要因として海洋が
COを吸収して大量の炭素を貯留し、それを海洋循環によ
って大気に移動することで、気候変動の調整をしているというのです。
その壮大な海洋循環モデルは「ブロッカーのベルトコンベアー」と呼ばれ、最終
氷期に起きた急激な気候変動を理論的に解明しました。
地球温暖化についてはさまざまな論争がありますが、本書ではそれらの先入観を
一たん忘れて、多くの研究者による気候科学の歴史を実に丹念に辿っています。
そのスタートは第一次世界大戦中のセルビアの科学者ミランコビッチの研究でし
た。彼は地球の軌道の微妙なブレが日射量の変化となり、
22千年から10万年ま
でのいくつかの周期で、大きな気候変動が起きるとしたのです。
氷期の要因を探るその研究は、大戦中にオーストリアの捕虜となった独房で生ま
れました。
1917年に発表されたこの研究に、ウェゲナーやケッペンも乗ってきた
そうです。しかし実証されないままその後長い間忘れられていました。
それが復活したのは地質学的な年代測定法での実証だったのです。
ブロッカーはその放射性炭素による年代測定法の専門家でした。
彼はミランコビッチに夢中になり、再計算で確かめ、さらに軌道周期とともに
CO
が大きく関わっていることを見出しました。
その実証に各地の氷河のモレーンの地質や、サンゴ礁の地道な炭素測定を重ねて
います-
1972年のことでした。またそれより前の1957年に、レヴェルやスースが
COガスが温室効果を持つことを提唱して、「こうして人類はいま、過去には起
こりえず、将来にも再現されないだろう大規模な地球物理学の実験をおこなって
いるのだ」という名言を述べています。
その
CO測定にあたったのが、カリフォルニア工科大学を出てノースウェスタン
大学で博士号をとっていたキーリングでした。
いわゆるキーリング曲線に至るその苦労はたいへんなものだったそうです。
また同じころコロンビア大学の地質学部で学位をとったばかりの高橋太郎も、海
COを吸収しているかを確認するために、小型船でひたすら海水をくみ上げて
ブロッカーに深層水放射性炭素年代測定資料を提供し、また自分でも大気と海洋
の炭素交換を測定して
COの海洋~大気循環の実証に貢献しました。
ブロッカーはさらにグリーンランドや南極で氷床のコアをとって測定を重ねてい
ますが、その測定技術の進歩には驚くばかりです。
このような多くの科学者の地
道な研究によって、氷期の実態や過去の大干ばつなどの気候大変動が次々に解明
されてきました。
そして僅かの
COの変化が海洋の循環に影響して、大きな気候変動を引き起こす
恐れがあるというのです。ブロッカーは「気候は突然、野獣に変わり、われわれ
に牙を向くことになる。それはある程度予想はできるが、まだわれわれは知らな
いことばかりだらけである」と述べています。
気候修復のためのいくつかの提言もありますが、すっきりした解決にはまだまだ
道は遠いようです。
                                                    記     吉澤 有介